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「まさか、人間がそのように短命だったとは……」
そう言ってさめざめと泣く姿は、なんだかすでに俺が死んで、葬儀にでも参列してるようだった。
当たり前だが、俺はまだ死んでないからな!?
「そりゃ、ドラゴンは長命だからな。
100年ってのも、人間にとっての数ヶ月くらいの感覚かもしれんが……。
しかしそうなると、ウチに居てもらう方がいいだろうな。
人間の姿でそんなに長く暮らすのは、一人じゃ厳しいだろう」
「んなっ!? ダメですよ!
この女を招き入れるなんてとんでもない!」
「しかしだな、元はといえば俺のせいなんだし……」
「そんなことないです!
人間になったのも、旦那様の元へ来たのも、この女の勝手なんですから!」
「あー、ルーヴ? お前、自分のこと、棚どころか天空にぶち上げてない?」
「ぬあっ!? そっ、そうですけどっ……!
でも! それとこれとは違うんですよ!!」
「なにが、どう違うっていうんだ?」
「えっと、あの……。その……」
こっちはこっちで、あわあわとした様子で、適当な理由を考えているようだ。
まったく、なんでこんなにルーヴは必死になっているのやら……。
あ……、そうか。
コイツは、森に落ちたドラゴンを追い払うために戦って、その時怪我したって言ってたな。
つまり、この二人が元々喧嘩してたってわけか……。
ウマが合うかどうか以前に、元々宿敵同士なんだな。
そりゃ、簡単に受け入れるってのも無理な話か。
「ともかく、人間のことわからず一人で暮らすのは無理だ。だから、タツミはウチで暮らせ。
あと、さっきは怒鳴って悪かった」
「いえ、謝罪するのはこちらの方です。
イーナム様の深いお考えも理解せず、浅はかな行動にございました。
その上、おそばに置いてくださるなど、身にあまる光栄にございます。
どうか、不束者ですが、よろしくお願いいたします」
優美というにふさわしい振る舞いで、静かに頭を下げるタツミ。
さらりと肩から胸元に流れ落ちる髪さえも、その姿と相まって、非常に色気を感じさせる。
というのは一般論だ一般論。俺の個人的感想ではない。
俺の好みかと聞かれると……。そうだな、嫌いではないが、好きでもないな。ドウデモイー。
ふさふさの毛皮があるわけでもなく、つやつやの鱗があるわけでもなく、俺から見て普通。
立派な角も、滑らかに揺れる尻尾も、炎を吐く迫力もない。普通の人間。
普通のものに抱く感想とは、つまりドウデモイーである。
そんな事を考える俺と、頭を上げ、髪をかきあげるタツミの間に、ルーヴは割って入った。
「だっ、旦那様がそうおっしゃるので、住むのは許しますがっ!
旦那様は渡しませんし、触ることも許しませんからね!!」
「お前は、なんの権限があって言ってるんだ……」
「つまりそれは、イーナム様のお許しがあれば、文句はないという意味ですね?」
「なっ! なんでそうなるですかっ!!」
「先ほどは出ていけと言っていたのに、イーナム様が許すから、住むのを許したではないですか。
ならば他のことも、イーナム様が許すなら、貴方も許すということに他なりませんでしょう?」
「ダメダメ! それだけは絶対にダメ!!」
「しかし許可など取るつもりは、元よりありませんよ。
そういったことは、二人の間のこと。他人に指図されることではありませんもの。
さ、イーナム様。共にこれから過ごす、僅かな未来を語り合おうではありませんか……。
子供は何人欲しいですか? 男の子も女の子も、どちらも欲しいですので、二人以上は確定ですね。
ふふっ……、きっと貴方様の子なら、どちらでも可愛いでしょうね」
「まっ! 待てやごらぁ!!」
ルーヴを押し除け、俺に早口で何かブツブツと唱えるタツミと、それを引き離そうとするルーヴ。
なんだよこれ……。どういう状況だ??
というか、どうしてこうなった……。
タツミの超高速早口妄想への正しい返答は「……うんっ! そうだなっ!」である。




