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02 もふもふの魔力

 一日森をさまよい続け、夜を迎えた。

どうやら完全に迷ったらしい。



「ま、俺が方向音痴なのはわかってたけど」



 そんなため息をつきながら、火を起こし、収納札から鍋と水、そして塩を出す。

その辺に生える野草を放り込んでできたのは、野草スープだ。別名、煮込んだうさぎのごはん。


 本来は干し肉を入れるのだが、持っていた分を全部あの狼にやってしまったので仕方ない。

ま、俺は怪我してるわけでもないし、狼と違って肉を食べなくとも死にはしない。



「空きっ腹にスープが染みる……」



 ほぼ味のしない、エグ味しかないスープの食レポは、俺の語彙力ではその程度でしか言い表せない。

ゴリゴリと野草の根を齧り飲み下し、さっさと眠りにつく。


 木にもたれかかり、膝を抱えるような体勢。

いつ何があっても、すぐに逃げられる体制での眠りは、ひどく浅い。

それにより、俺は周囲の獣や魔物の動きを感知し、眠りながらも周囲の安全を確認しているのだ。

敵意を感じた瞬間、逃げられるように。


 俺はふいに夢へと落ちる。ふわりと柔らかな感触に包まれ、温かさを肌に感じた。





「え……。朝?」


 木の枝々から漏れる朝日で目を覚ます。

不覚……。野営で本気で寝入ってしまうとは……。

しかし、起きたということは、幸運にも魔物や獣に襲われなかったということだ。


 一瞬不穏な想像に、ぞわりと嫌な汗をかいたが、ふっと息をつき、起きあがろうとした。

ん……? 起き上がる? どうして寝ているんだ?

そう思った瞬間、俺の目前を黒い何かが横切り、起きあがろうとする俺を、再び地面へと叩きつけた。



「痛っ……、くはないな」



 ぼふっと倒れ込んだ先は、同じく黒いもふもふとした何か。

何事かと横を見れば、青く澄んだ瞳が俺を見つめていた。



「あ……、お前は……」



 言葉を発しようとした瞬間、俺の頭などひと呑みにできそうな口が、ガバッと開く。

これは死んだな……。そう諦めかけた時、ベロリと舌が俺の首筋を舐めとった。



「うわっ、くすぐってぇな!」



 そしてすんすんと鼻を鳴らし、首元へとその頭をぐりぐりと押し付けてくる。

どうやら敵意はなさそう……。というよりは、懐かれたようだ。


 そりゃそうか、完全に寝入ってしまったとはいえ、敵意のある相手なら、さすがに殺気で起きたはずだ。

そして俺が寝入ってしまった理由、それはコイツのもふもふを、布団にしてしまったからだ。

その上ご丁寧に尻尾を上にかけ、毛布のように俺の全身を包んでいるのだ。

そりゃ、完全に寝入ってしまっても仕方ないってもんだな。



「ほら、じゃれつくな。そろそろ起きて、行かないと」



 そういって引き離せば、まるで仔犬のようにクゥクゥと鳴き、悲しげな顔で見つめるのだ。

こうなると厄介だ。狼なんて連れて歩けば、人間に怖がられてしまうからな。

テイムして登録すれば、証明の首輪が貰えるが……。


 だが、テイムにもデメリットは当然ある。

テイムとは、魔力によって相手を強制的に従わせる魔法だ。

相手の自由意志を奪う。人間に対して行えば、禁忌の奴隷魔法と同じである。

つまり、テイムしてしまえば、俺の命令は絶対であり、そうなってしまうと、もう野生には戻せない。


 あのパーティーが俺の居場所じゃなかったように、コイツの居場所も俺の隣じゃない。

だからテイムする気はないのだが……。



「もう怪我は大丈夫みたいだな。

 ほら、俺はいいから、さっさと縄張りに戻りな。

 仲間が待ってるはずだろ?」



 狼は群れで暮らすもの。ならばコイツを待ってる奴らが居るはずだ。

けれど、コイツは一向に縄張りに戻ろうとしない。

俺の服の裾を噛んで、行くな行くなとせがむのだった。



「お前なぁ……。もしかして、仲間が居ないのか?

 しかし、俺はお前と一緒には居てやれないんだよ」



 クゥクゥという声が、俺の決心を揺るがせる。

そりゃもうこの状態じゃ、テイムしたのと同じようなもんだけど……。だけどなぁ……。


 ぐるぐると考えを巡らせながら、俺はもふもふに抱かれるのだった。

これはもはやただの犬。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はやくも狼ちゃんにノックアウトされました……ぐはっ。 もふもふ可愛いです……
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