18 世界を……
洞窟を抜けると、ルーヴが涙を浮かべて抱きついてきた。
「旦那様! ご無事で……!」
「ただいま。どうした? なにかあったのか?」
「ずっと一人で待っていると、万一があったのかと考えてしまって、不安で……」
「あぁ、悪かったな。思ったより時間掛かっちまったしな」
「いえ、こうして無事帰ってきていただけただけで、私は幸せです」
「ははは、大げさだなぁ」
わしわしと頭を撫でてやれば、頭をぐりぐりとおしつけ、甘えてくる。
まったく、姿が変わっても、あいかわらず甘えん坊だ。
落ち着くまで、少し休憩することにしよう。
さすがの俺も、ドラゴン相手に少々疲れた。
「とりあえず座ろうか。水分補給もしたいしな」
「でしたらこちらへ! お疲れかと思いまして、準備しておりました」
てこてこと駆けるルーヴの行先には、きれいに石が払われた場所があった。
そこには二つ分の、腰掛けるにちょうどいい高さの石が置かれていた。
少し窪んでいて、石を削ったような様子がある。手が込んでいるな。
「へへへ。待っている間、何かしてないと落ち着かなくて……」
「まさかとは思うが、時間があったら玉座でも作ろうとしてたのか?」
「へっ!? なぜそれを……」
「いやほら、そこの後ろにそれっぽいのがあるし」
指差す先には、削り切れていない大きな岩がある。
というか、道具もなしにどうやって石を削っているのかは謎だが、暇だからやることにしては大掛かりすぎる。
「ドラゴンを平伏させた記念の、旦那様の等身大像と悩んだのですが……。
やはり、この地を治める者ならば、玉座が良いかと思いまして」
「平伏させてねぇし、ここを治める気もねぇよ!」
「へっ!? じゃあ、ドラゴンはどうしたのですか!?」
「怪我してたから、治療してきた」
「そんな……。ドラゴンからこの地を解放し、領地とする計画が……」
「やめろ、そんな壮大で面倒な計画を立てるんじゃない。
だいたい俺は、今のこじんまりした家で十分だ」
「なんと謙虚なお方……。
旦那様ほどの力をお持ちでしたら、この世界くらい手中に収められますでしょうに……」
「いらねぇ……。それに、好きに動ける立場の方が都合がいいしな」
「はて、何か目的でも?」
「ん? そういや言ってなかったか?
俺は、世界各地の動物や魔物を研究したいんだよ。
今回のドラゴンも、レアものかもしれないから依頼を受けただけで、倒す気なんてなかったしな」
「やはり世界を……」
「ちげぇ!!」
なーんか、都合のいい解釈というか、都合のいい部分だけを聞いている気がするな。
妙に、そういうとこは人間臭くなってるもんだから、ホント始末に負えないな。
「そういえば、そのレアモノって、なんだったんですか?」
「あ、一応それも聞こえてたのかよ」
「当然です。旦那様の言葉ですから、一言も聞き漏らす気はありませんわ」
「お……、おう……」
ぞわっと悪寒が走ったが、気にしないでおこう。
それに、俺のフィールドワークの助手をしてもらえるかもしれないし、ドラゴンに興味を持っているならありがたいからな。
「ほら、ここのドラゴンって、他のドラゴンと争ってたって言ってただろ?」
「そうですね。それで負けた方が落ちたと。
縄張り争いでしょうか?」
「いや、俺の調査では、ドラゴンってのは、縄張り意識が弱いんだよな。
住処はあるが、それ以外はテリトリーってのをあんま意識しないようだ」
「意外ですね。ドラゴンの住処というのは、人間はもとより、魔物も近寄らないのですが」
「それは、ドラゴンを怖がって近づかないだけで、ドラゴン自体は、寝床以外に興味はないぞ。
なんたって、どこであっても、大抵その地域の最強だからな」
「縄張りを主張しなくても、どこででも生きていけるってことですか」
「そういうことだ」
やはり狼だけあって、縄張りの意味というのは理解できているようだ。
安全地帯がなくたって、どこでも安全なドラゴンに、縄張りなど不要。
では、なぜ争っていたかを、俺のいままでの調査から導いた仮説を教えてやることにしよう。
スローライフやめて世界を旅する宣言出ましたね。
まぁ、そこまで書き続けるかは別問題ですけど。




