16 潜入
トンネルのような、闇がどこまでも続く洞窟。
それは直径10メートルはゆうにあり、この中に家を建てることだってできそうだ。
「うぅ……。クラクラします……」
「あー。瘴気がこの出口の一点に集中してるんだな。つまり、相手はこの中か。
瘴気が集中してるってことは、他の出口もないと思った方がいいか……。
こりゃ、思った以上に面倒な案件だぞ」
洞窟の中、そこに身を隠すのは理解できる。
おそらく相手はもう一頭のドラゴンと争っていたということから、怪我をしているからだ。
けれどそれは、俺にとっては逃げ場がないという、一番厄介な状態であるといえる。
それに、万一暴れて洞窟が崩壊すれば、俺はともかくドラゴンも生き埋めだ。
それは絶対に避けなければならない。
そして、ルーヴの顔を見れば、元々調子の出ない様子だったが、さらに顔を青ざめさせている。
これ以上は無理だな。俺もコイツを守りながら進むのは、さすがに厳しい。
「ルーヴ、お前はここで待ってくれ」
「そんな! 私も一緒に……」
「……。万一に備え、見張りを立てるのは当然の選択だ。
今の俺にはお前しかいない。だから、ここを守れるのは、お前しかいないんだ」
「私しか……。私、旦那様に頼られてる……?
はい! 私、全力でお守りいたします!!」
「あぁ、頼りにしてるぞ」
うん、従順。やっぱり犬の役目といえば、番犬に限る。
実際にルーヴが居れば、俺は後ろをあまり警戒しなくて済む。
そして、守りながら進まなければならないという事態も避けられる。我ながら完璧な作戦だ。
まぁ、入口を守るといっても、ドラゴンの射程圏内であるこんな所まで来るやつはいない。
なんたって、ハイオークですら危険だと感じる場所だからな。
だから、ルーヴを休ませる意味でしかないが、待てができずに人間に化けるようなコイツには、役目を与えるフリでもしておかないと、絶対についてくるのは目に見えている。
人間の汚さってのは、こういうことをいうのだが、本人が気づいてないからいいか。
「それじゃ、護身用の護符と食料、あとは万一の時の薬と、通信糸を渡しておく」
「こんなに!? 旦那様の分がなくなりますよ!?」
「何言ってるんだ、身軽でないと万一の時逃げられないだろ?」
「そうかもしれませんが……」
「で、この通信糸の説明しないとな。
これの端をここに括り付けるから、何かあったら、このハサミで切ってくれ。
俺はもう片方を持ってるから、切れたら気付いて戻ってくるって寸法だ」
「それって、普通の糸ってことですか?」
「特別な糸だ。このハサミでないと切れない。
だから、何かあったと知らせるのに使えるのさ」
「へぇ……。また変な道具持ってますねぇ……」
「これは昔、蜘蛛の魔物を見に行ったときに思いついたんだ。
あの魔物は、上質な糸を吐くからテイムしたんだけど……」
「あの、長くなりそうなら、帰ってからにしませんか?
いくら隠蔽護符が効いてるからって、長居は禁物ですよね?」
「あぁ、そうだな。んー、またあの蜘蛛も撫でてやりたいなぁ……」
思い出すと会いたくなるもんだ。
けれど今はドラゴン。蜘蛛はまた、別の機会にしよう。
「それじゃ、行ってくる」
「はい。お気を付けて……」
少し不安げなルーヴを残し、俺は洞窟へと入っていった。
中は暗いが、十分に風が通る広さのため、ジメジメとした様子はない。
先が見通せるよう、暗視魔法を使い見渡せば、滑らかな壁面に、一筋の切れ目が見えた。
「高さ、深さから考えるに、翼が当たった跡だな」
その溝は、一直線に奥まで続いており、この大きさの洞窟で、ギリギリの体長なのだとわかる。
けれど、それは左にしかなく、右側はきれいなものだ。
「ってことは、右の翼は折れてる?
もしくは翼ごと斬られたか?」
森に落ちたという話もあった。
もし翼が斬られていたなら、かなりの重症だ。
急いだ方がよさそうだ。
オタク特有の長くて早口な説明再び。




