15 潜入準備
ハイオークとの戦闘、それはこの先近くに、目的のドラゴンが居るであろうことを示している。
普通の魔物であれば、瘴気を恐れて逃げるところだろうが、オークの変異種たるハイオークは、その瘴気すらも喰らい、糧にする。
そのため、濃い瘴気を得るためドラゴンに近づき、かつドラゴン自体の射程からは、ギリギリ外れている場所に棲むのだ。
「と、聞いたことがある」
「えっ……。前にドラゴンをテイムしたんですよね?
その時は、何もなかったんですか?」
「色々居たが、あんま気にしてなかったな。
というか、生でドラゴンが見れると思うと、楽しみで他の事気にする余裕なかったな」
「……。もしかして、旦那様って、ちょっと頭おかしいんじゃないですか?」
「はっ!? なにそのド直球ストレートな物言いは!?」
「これでも、多少オブラートに包んだつもりなんですけど」
これだから分かってないヤツは困る。
ドラゴンというのは、かなり珍しい生物なのだ。
動物と魔物、双方の性質を持ち、知能もある。
内に秘める魔力も膨大で、それを扱う技能も卓越している。
神として崇められ、そして畏れられる。テイマーならば誰もが憧れる存在なのだ。
それを前にして、同じ志を持つものならば、平常心でいられるはずがないだろう。
そして何より今回は……。
「なんです? そのニヤケ面は」
「ふふふ……。今回の相手、ドラゴンの中でも、かなりのレアモノかもしれんのだよ」
「レアモノ? ドラゴンなら、大抵珍しいんですよね?」
「その中でも特にだ」
「どんなのなんです?」
「それは、様子を見てからのお楽しみだな。
ともかく気付かれないよう、隠蔽陣を描くか」
カバンから無地の護符と筆を取り出し、陣を描く。
それは、陣の周囲にあるものの存在を隠蔽する魔法陣。
ドラゴンに、こちらの存在を気付かれないようにするためのものだ。
「えっ? ここに描いても、札の隠蔽にしかなりませんよ?」
「ん? この陣なら、周囲3メートルは有効なはずだが?」
「へ?」
「え?」
なんだか気の抜けたやり取りだが、コイツは何を言っているんだろう?
まぁ、この陣は俺が考えたものだし、ルーヴの思っている陣とは、違うものなのかもしれないな。
「え……。こんな術式見たことありません!」
「そりゃ、自作だし」
「うそ……。陣の中だけじゃなく、外にまで影響があるなんて……。
だいたい、魔法陣を一から自分で考えるなんて、さすがに普通じゃないですよ!?」
「そうなのか? 俺は誰かに教えを乞うなんてさ、性に合わないんだよな。
だってさ、修行って身勝手な師匠の下で、何年もお世話係しないといけないんだぞ?
んなことやるくらいなら、本命のテイマーとして活動したかったしな。
だから、剣術も魔術も自己流だ」
「えぇ……。狼だって、狩りの仕方は親から教わるというのに……」
なにが不満だというのだろうか。
人間ってのは面倒で、できる限り関わりたくないもんだ。
ただそれだけなのに、ルーヴは……。
あ、そうか。コイツは、村の奴らに餌付けされてたから、そういう面倒な所は知らずに、良い所しか見てないのかもしれないな。
そりゃ、森と村の守り神だとちやほやされてれば、そう勘違いしたっておかしくはない。
それに俺だって、完全に自己流ってわけでもないんだけどな。
色々な動物や魔物を見ていれば、効率的な動き方や、魔力の組み上げ方ってのは見えてくるもんだ。
それを自己流にアレンジすれば、魔法も剣術も、それ相応の形にはなる。ただそれだけ。
ただそれだけなのに、みんな難しく考えすぎなんだと思う。
「ま、俺のことはどうでもいいだろ。
とりあえず、それ持ってれば気付かれることはないさ」
「うーん……。気になることだらけですが、今はドラゴンですよね」
「そそ。そんじゃ行こうぜ」
再び歩き出し、進んでゆけば、崖にぽっかりと口を開いた。巨大な洞窟が現れる。
それは滑らかに削られた、トンネルのようで、誰かが意図して造ったものであることは明らかだった。
「これは……。面倒だな」
なぜルーヴがオブラートを知っているかって?
主人公のなんでもアリ感なら、それくらい自作してても不思議じゃないよね。




