12 縄張り
ドラゴンは森に落ちたと村長は言っていたが、考えてみれば森はルーヴのテリトリーだ。
その中に落ちたのならば、ルーヴが何も知らないはずがない。
「で、お前は何を隠している?」
「ひゃっ!? そっ、そんな、旦那様に隠し事だなんて……」
「何も隠してないなら、なんで目を逸らす?」
「そそそ、そんなことないです!」
「そうか。なら、やっぱりお前は置いていくか」
「そんな! さっきのは嘘だったんですか!?」
「お前なら、ドラゴンの居場所知ってると思っただけだ。
なにも知らないなら、足手まといはいらない」
「足手まといなんて……。酷いです……」
「泣き真似したって無駄だぞ」
「チッ……」
ホント、今の姿になってからは、小賢しくなりやがって……。
まぁ、この少女姿も悪知恵の一部ではあるけどな。
人間の姿であれば、俺と一緒に村に行くこともできると考えたわけだ。
おかげで、村への買い出しでグズられることはなくなったし、荷物運びも台車を一緒に引いてもらえるようになって、随分と楽になった。
野菜を売りに行くにも、逆に必要物資を買いに行くのも、やはり人手は多い方が何かと便利ではある。
しかし魔力を使い果たし、回復するまで元に戻れないのは、本人も予想外だったようだがな。
「それじゃ、お前は村長の家で留守番な」
「この広い森で、一人でドラゴンを探せると?」
「ドラゴンほどの大物なら、動物だけでなく魔物も恐れるくらいだ。
そいつらの気配の分布で、だいたい予想はできるさ。
それに、目撃情報を集めた資料ももらったしな」
「でも、森の案内役は必要でしょう?」
「どうとでもなるさ。俺は元々テイマー修行として、世界を放浪してた経験もあるしな」
「でもでも……」
「もういいだろ、これで話はおしまい。
お前は留守番。いいな?」
「待って! 待ってください!
私、ドラゴンの居場所知ってます! 案内しますから!」
やっと白状する気になったようだ。
まったく、面倒な駆け引きごっこなんて、まっぴらごめんなんだがな。
「ほう? ならなぜ最初からそう言わない?」
「それは……」
「それは?」
「旦那様と出会った時の傷……。
あれは、ドラゴンと戦った時の傷なんです……」
「え? お前、ドラゴンと戦ったのか?」
「はい……。縄張りに落ちてきたので、追い払おうとして……」
「で、勝てたのか?」
「いえ……。相手はすでに怪我していたんですが、全然敵わなかったんです」
「で、お前はあの場所で、傷が治るまで大人しくしていたのか」
「そうです……」
「なるほどな。森の守り神って言われてるお前が、怪我してるってのも変だと思ってたんだよ」
「うぅ……」
頭の耳はへたりと垂れ、苦々しい表情をするルーヴ。
そりゃ、森で一番強いって言われてるわけだし、その時が初めて負けた戦いだったのだろう。
プライドをズタズタにされて、悔しいなんてもんじゃないだろうな。
「だから隠してたのか?」
「そうじゃなくて、あんなのと戦ったら、旦那様が危ないと思って……。
だから、うまく会わないようにしようと……」
「そういうことか。心配してくれたんだな」
くしくしと頭を撫でてやれば、少し涙を溜めた目で、俺を見上げてくる。
まったく、心配性なヤツだ。
「ま、俺もそんな無理はしないさ。
相手の様子を見て、元気そうなら放っておくつもりだしな」
「でも……」
「それに、ドラゴンが二頭ってことはな……。
もしかすると、珍しいものが見れるかも知れん」
「珍しいもの?」
「可能性があるってだけだがな。千年に一度あるかないかの、一大イベントだ。
俺が生きている間に見れたなら、テイマーとしてこれほどの幸運はないだろうな……」
争う二頭のドラゴン、それらは元々この土地に居たものではない。
その村長の話を聞いて、思い至ったドラゴンの性質。
そこから想定される、現在のドラゴンの様子に、俺は胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
めんどくさいと言いながら、駆け引きごっこしてるやん。




