11 依頼
「森に潜むドラゴンを、なんとかしてほしいのです」
依頼は、えらく曖昧なものだった。
なんとかするってなんだよ……。
「えーと、なんとかとは?」
「倒してほしいとは言いません。
しかし、どこか遠くの地へと移すことはできないかと……」
「んー。できなくはないだろうけど、理由次第だな。
あいつらを追いやろうってんなら、協力する気はないし」
「いえ、元々別の地で暮らしていたドラゴンです。
数ヶ月前、二頭のドラゴンが現れ、一頭がこの森のどこかへと堕ちたようなのです」
「へー。ドラゴンが二頭現れるとは珍しい」
「理由は分かりませんが、その二頭で争っているようでした。
そして、その一頭が弱り、この地へと堕ちたとみております」
「ってことは、怪我して動けなくなってるのか?」
「調査隊を派遣しましたが、途中で魔物に襲われ、撤退してきました。
ドラゴンの姿は、見ていないとの事です」
「あぁ、ドラゴンの瘴気で魔物が湧いてるんだな。
並の冒険者じゃ、姿を見るのは難しいらしいな」
「その並の冒険者じゃ近づけない相手を、旦那様はテイムされたことがあるんですよね?」
「んー? 俺がテイムしたのは、そんなに難しくなかったぞ?」
「さすが旦那様です! ドラゴンですらひれ伏す強さなのですね!?」
「それはどうだろ?」
瘴気うんぬんの話も、冒険者パーティーで説明されただけで、俺自身どういうものかよくわかっていない。
なので難しいと言われても、俺がたまたま運良く、簡単にテイムできただけとしか思えないのだ。
「どうか、この依頼を受けてはくださいませぬか!?
もちろん報酬は弾みますゆえ!!」
「んー……。ドラゴンが怪我してるかもってことだし、別にいいけど?」
「ありがとうございます! では、護衛の者を用意いたしますので、村まで……」
「え、それはいらない。」
「なんですと!?」
「いやだってさ、一人で行った方が動きやすいし」
「そんな無茶です! 相手はドラゴンですよ!?」
「そうです! 旦那様が行くのなら、私も行きます!!」
「へっ!?」
「旦那様に付き従うのは、妻の役目ですから」
ルーヴはにっこりと笑う。
いやぁ、一人で行きたいんだけどなぁ……。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、長老は俺とルーヴを交互に見つめた。
「お二人はその……、夫婦でございましたか……」
「いやいや、コイツが勝手に言ってるだけだからな!?」
「何をおっしゃいますか。幾夜も共に過ごした仲ではございませんか」
そう言いながら、ルーヴはすっと俺との間を詰め、その細く長い指で、俺の左右の鎖骨を撫でるように触る。
あー、全然嬉しくねぇ。
「ただの添い寝だろ?」
「そんなっ!? 私とは遊びだったのですか!?」
「遊びも何も、お前が夜な夜なクゥクゥ寂しそうな声出すから……」
「私をこんなに本気にさせておいて、ひどいです……」
「勝手に本気になっておいて、めんどくせぇ……」
泣き真似なんてするとは、ホント人間ってのは面倒くさいな。
どこまで人間になっているのかは知らないけれど。
「と、ともかく……。一人では危険かと……」
「それなら、護衛の代わりにさ、畑の作業頼みたいな。
ドラゴンの様子を見に行くなら、しばらく帰ってこれないかもしれないし」
「むぅ……。わかりました、そこまでいうならそうしましょう」
そう言って長老は納得し、諸々の目撃情報などをまとめた書類を置いて村へと帰る。
そんな様子を尻目に、ルーヴはいつまでも不貞腐れていた。
いつもなら俺の仕事を奪うように夕食を作るのに、ツーンとしながら、リビングのベンチで寝っ転がっているのだ。
これが犬や猫だったら可愛いで済ますのだが、今はただのガキだしなぁ……。
「はぁ……。お前もついてきていいから、機嫌直せ」
「やったぁ! いいんですねっ!?」
あっ、やっぱコイツ、拗ねたふりだったか。
ホント、人間ってのはめんどくさいやつらだ。
ところで、ドラゴンの数え方って「頭」でいいんすかね?




