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エルフの若旦那と灰色の恋人  作者: さつき けい


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1・冬の日の告白

☆『小心者エルフと脳筋魔術師』シリーズ8 外伝3☆


お久しぶりでございます。

今回も全七話の短編になります。

長いコロナ禍の中、逆お気に入りに入れてくださっている皆さん、ブクマしてくださっている皆さん。

ほんの少しですが私からの気持ちとして、一気に全話投稿です。

よろしくお願いします。

初めての方は初めまして。

シリーズものの外伝になりますが、よろしければどうぞ。

時間がある方は是非、お付き合いくださいませ。



 世界の名前など、そこに住んでいる生き物が知るはずはない。


他の世界の神でもなければ、その世界の呼び名など必要ないのだから。


特にその世界に住んでいる妖精族というのは、あまり名前にこだわりを持たず、興味がなかった。


彼らの世界はあまりにも狭く、わがままに満ちていたのである。




 その国は、王がいるので王国と呼ばれている。


その王が住む王宮に、青年と呼ぶにはまだ幼い顔をした一人のエルフが働いていた。


薄い金色の髪は緩くうねり、緑眼が多いエルフにしては珍しい紫水晶の瞳。


背はすらりと高く、どんなに鍛えても筋肉が付かない身体は人族からはうらやましがられている。


 広い廊下を歩くそのエルフに誰かが駆け寄る足音が響いた。


「ユイリ!」


エルフのユイリは足を止めて振り返る。


一つ年下で、国で最強といわれる魔術師を父に持つ幼馴染だった。


「やあ、フウレン。 どうしたんだ?」


肩で切り揃えられた真っ直ぐな銀髪の人族の少年フウレン。


息を切らせ興奮している彼に、ユイリは落ち着けと肩を叩く。


「楽団の試験、受かったんだって?」


ユイリの音楽好きは有名で、本人はリュートを弾きこなす。


成人したら楽団の入団試験を受けることを前提として、広場にある劇場の練習室を無料で借りていた。


今年、無事に成人である十五歳になったユイリは、念願だった楽団に入るため、先日試験を受けていたのである。


「あ、ああ」


情報の早い幼馴染の言葉にユイリは少し顔を赤らめ、ポリポリと頬を掻く。


 


 国が運営している演劇場専属の楽団。


給与だけでなく、名声も得られる人気の職業のため、試験はかなりの難関で知られていた。


「おめでとう!、お祝いしなくちゃね」


「ありがとう、フウレン。 でもそんな時間の余裕はないだろう?」


「ユイリが忙しいのは分かってるよ。 でも何かしたいんだ」


一人っ子のフウレンにとってユイリは幼い頃から兄のような存在だった。




 現在、ユイリは文官として、フウレンは宮廷魔術師見習いとして二人とも王城内で働いている。


「分かったよ。ちょうどフウレンに話もあるし」


とりあえずは昼飯を一緒に、そんな会話をしながら二人は廊下を歩いていく。


「だけどユイリ。 王宮の文官と劇場の楽団員の掛け持ちなんて、大丈夫なの?」


フウレンは周りに聞こえないように少しだけ声を落とした。


「うん。 そのあたりは大丈夫だよ。 ギドちゃんが根回し済みさ」


ユイリは自分の父親である『闇属性のハイエルフ』のギードを「ちゃん」付けで呼ぶ。


ギードは一見、腰の低い商人だが、フウレンの父親は彼を『腹黒』という別称で呼んでいた。


「ああ、さすがギードさん……」


三児の父親でありながら、エルフ故にまだ青年ともいえる容姿をしているギード。


へらりとした笑みを浮かべる黒髪のエルフの顔を思い出してフウレンは苦笑した。


「まあ、そういうこと」


ユイリは大きな扉の前で立ち止まり「またな」と手を振って友人と別れた。




「ユイリ!」


丁寧に挨拶をしながら豪華な部屋に入ると、輝く金色の髪に宝石のような緑の瞳のエルフの少女が満面の笑顔でユイリを迎える。


「セシュリ王女様、火急の御用とお聞きしましたが」


人族の王太子とエルフの王太子妃との間に産まれたセシュリ王女は今年で十歳になった。


「そんなことはどうでもいいの!。 ユイリ、楽団試験の合格おめでとう」


王女はニコニコと笑いながら駆け寄り、ユイリの手を取る。


周りの侍女や侍従たちはもう慣れたもので、それを咎めることはしない。




 ユイリは王宮に見習いとして奉公に上がる前から、すでに友人候補として王女とは何度も会っている。


王宮にいるエルフの中では年齢が近く、王女のお気に入りだった。


 この王城の敷地内にいるエルフはほとんどが弓兵部隊の軍人で、エルフらしいエルフ、つまり容姿の美しさを至高とする高慢なやからが多い。


しかし、ユイリは商人の息子であるため他種族にも慣れており、多少は空気が読める。


しかも両親は国から実力者という称号を賜っていて、その影響もあり、王族に対し気安い態度も許されていた。


最初は多少、先輩従者から嫌がらせを受けた事もあったが、伊達に『腹黒』の息子をやっていない。


当然、口で負けることはないし、どんな理不尽な仕事でも、父親の眷族たちに仕込まれた知恵と魔法でこなしてきた。




 それでも一応は目立たないようにはしていたのだが、エルフである事実は隠しようもない。


そのうえ、この王宮にはもう一人『策略家』がいる。


セシュリ王女の父親である王太子だ。


彼のことはギードも一目置いている。


娘可愛さのあまり、お気に入りのユイリを王宮に出仕させるよう仕向けたのも彼だった。


「ユイリ。 楽団に入っても私のところには来てくれるのでしょう?」


王女のさっきまでの笑みが不安に歪んだ。


「はい。 文官としての席はまだこちらにありますので」


たまにお茶くらいは付き合いますよ、と返事をする。


楽団員は兼業で他に職を持っている者が多い。


ユイリの副業が王宮の文官だということに過ぎない。


「火急の要件」とはこのことだったようだ。


ユイリは、輝くような笑みに戻った王女にこっそりため息を吐くと、丁寧に挨拶をして部屋を辞去した。




 昼休憩の時間、王宮内にある食堂は賑わっていた。


「ユイリ!」


隅のテーブルからフウレンが手を振っているのが見えた。


美少年で家が大富豪であるフウレンと、珍しいエルフの文官であるユイリに、周りの女性たちの目が輝いている。


いつもは時間をずらして食事を摂っているユイリはうんざりとした顔になってしまう。


足早にフウレンの側に行き、腕を掴んだ。


「ここじゃ落ち着かない。移動しよう」


「えー?」


幸いまだ注文していなかったようなので、怪訝な顔のフウレンを連れて食堂から出た。




 一旦中庭に出て、突っ切るように縦断。


「ちょっと、ユイリ、どこ行くの?」


「僕が引っ越したのは知ってるだろ」


ユイリは王城内にある見習い用の宿舎でずっとフウレンと同室だった。


成人になると見習いを卒業することになるため、半年前にそこを出ている。


「そういえば、お祖父じいさんのところにいたんでしょ」


王都には人族であるユイリの母の実家があり、大きな老舗商会を営んでいる。


そこにはユイリと、ユイリの妹たちの部屋もあった。


「ああ。でも、昨日、新たに城内で借りた」


高い城壁に囲まれた城内はかなり広く、王族が住む王宮の他、執務棟や兵舎に鍛錬場、ダークエルフ保護区などがある。そして、城内で働く者たちのための宿舎が何棟もあるのだ。


楽団入りが正式に決まる前に、ユイリは楽器の練習も出来る一戸建ての家を借りていた。


「ここだ」


そこは城に勤める者たちのうち、家族持ち用の一戸建ての家が並んでいる区画である。


その隅にある、こじんまりとした家に向かう。


「防音結界を張るには一軒家の方が楽なんだ」


そう言って、ユイリは借家に友人を招き入れた。




「へえ、まだ新しいんだね」


「まあね」


フウレンの実家やユイリの祖父母の家のような豪邸とは程遠い庶民的な二階家である。


ユイリはきょろきょろするフウレンを台所兼食堂に案内した。


「でもさ、ここって家族用でしょ?。 確か独身者は入れないはず……」


朝に焼いたパンを乗せた皿を出し、野菜と肉を挟みながらユイリの肩がビクッと揺れる。


「あれ?。 まさか、ユイリ」


食卓の椅子に座り、フウレンはユイリの顔をじっと見つめた。


「う、うん。 実は……結婚、したんだ」




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