「第五話 母親」
登場人物
風波見 裕一(主人公)
15歳の男の子、妹想い、ソラリスメテオ墜落以降妹の真理亜とともに崩壊した世界を旅しながら母親を探している
風波見 真理亜
心優しい12歳の女の子、好奇心が強い、裕一と旅をしている
御菓子屋のおばあちゃん
死んでいるように見えて実は生きてる、御菓子屋に住んでおり家族が戻ってくるのを一人で待っている
神谷
中年の男性、中学校で数学の先生をしていたらしい
天野 咲
小学生の時の裕一の同級生女子、二年前ソラリスメテオが堕ちる前日に自殺してしまう、生前は裕一と仲が良かった、裕一とは別の中学校に進学していたが中学校ではいじめを受けていた、裕一の夢の中によく出てくる
風波見 良子
裕一と真理亜の母、女手一つで兄妹を育てる、ソラリスメテオが堕ちた日は仕事の出張で家におらず現在は消息不明
ノア
真理亜が見つけたメス猫、風波見兄妹についてくる人懐っこい猫
作家
世界の秘密を知っている謎の人物
「第五話 母親」
○13 神願神社(○12から数日後、昼前)
梅雨とは思えないほどの快晴
海を目指している裕一と真理亜
二人は神社で休憩をしている
海に近づいてきて興奮している真理亜
真理亜「海だよ海!こんな真夏日は海とスイカと花火と海しかない!」
裕一「えー、海が二回あったぞ。というかスイカはなくていいかな」
真理亜「こんな暑い日に海に入らず、スイカも食べないなんて頭がマジカルとろけるフラペチーノになるよ?」
裕一「まぁ・・・ノアを拾った日以来雨に降られず灼熱続きだけどさ、梅雨なのに真夏日なんてやめてほしいよ」
暑さに弱く、泳ぐのが苦手な裕一
真理亜「ノアはお兄ちゃんと違って泳げるのかな?」
暑いのに真理亜にくっついているノア
裕一「犬じゃないし海にいれるのはやめた方がいいかも、波にさらわれそうだ」
真理亜「そうだね」
真理亜を見ながらニャーと鳴くノア
裕一「もう少しで着くしそろそろ行くか」
真理亜「目指せ海!」
○14 海(○13と同日の昼)
砂浜にたどり着く二人と一匹
真理亜「海だ!急げ!!」
荷物を砂浜に置いて、海の方へ走って行く真理亜
裕一「おい!置いて行くなよ!」
叫ぶ裕一
裕一とノアを置いて海に入っている真理亜
裕一を呼ぶ真理亜
真理亜「お兄ちゃんも入りなよ!!」
裕一「ちょっと待てって!」
砂浜に荷物を置く裕一
裕一「俺ちょっと水浴びしてくるから、ここで大人しく待ってるんだぞ」
ノアに言い聞かせる裕一
大きな声で鳴くノア
裕一「いいな?」
そう言って裕一は海に入る
裕一「よっしゃ!たまには水遊びするぞ!」
小さい子供のようにはしゃぐ裕一と真理亜
そして互いに水を掛け合って遊んでいる
真理亜「いった!」
裕一「どうした?」
真理亜「鼻の中に水が入ったみたい」
顔をしかめる真理亜
裕一「大丈夫?」
真理亜「うん、平気」
気にせず遊び続ける二人
時間経過
数時間海で遊び続けた裕一と真理亜
裕一「そろそろ出ようか」
真理亜「うん、少し寒くなってきたかも」
海から出る二人
ノアは二人の荷物の近くで待っている
裕一「もう夕方だ」
辺りはすっかり夕方になっている
リュックからタオルを引っ張り出す裕一と真理亜
真理亜「これからどうする?」
裕一「そうだな・・・とりあえず今日はこの辺で休むか」
真理亜「海でキャンプだぜ!」
裕一「そういうことで今日は決まりだ!」
真理亜「おー!」
真理亜が元気に返事をする
真理亜に続いてノアも鳴く
○15 砂浜(夜、○14と同日)
砂浜に置いてあった椅子で休む裕一と真理亜
ノアはタオルをひいた椅子の上で丸くなって眠っている
真理亜「いっぱい遊んで、いっぱい食べて後は寝るだけだぁ」
あくびをする真理亜
裕一「なんか今日は久しぶりに肩の荷を下ろせた気がする」
嬉しそうに話す裕一
裕一「今日は余計なことを考えずに遊べたというか、無心でいられたのかな?」
真理亜「こんなふうに遊ぶなんて滅多にないもん」
真理亜も嬉しそうな表情を見せる
裕一「昔、母さんに言われたことがあるんだ。男なんだから楽しいと思う空間は必ず守り切りなさいって・・・でも、ほんと良かったよ!こんな世界で一人じゃなくてさ、真理亜と一緒でよかった!一人ぼっちだったら楽しいと思う空間すら作れない」
裕一は素直に今の気持ちを打ち明けた
真理亜「幸せはね、人と共有しない限り実現しないんだよ。でも今の私たちには共有する相手もいるしペットもいる!」
裕一「共有することが大事って分かったよ、美味しいものを共有したいっていう気持ちも分かってきた」
真理亜の言葉を思い返す裕一
真理亜 声「二人しかいないんだから一緒に共有したいじゃん」
今更真理亜の言葉を理解する裕一
真理亜「でしょ!」
裕一「一卵性の双子ってわけじゃないけど、俺たち兄妹だもんね」
真理亜「ほんとだよ、隕石が堕ちる前も支え合ってきたんだ」
裕一「結局のところ、俺たちの関係は隕石が堕ちても変わらなかったってことだな」
真理亜「でもお兄ちゃんは少しだけしっかりしたよね」
裕一「少しだけ・・・」
真理亜「少しだけね、もっとしっかりした方がいいと思う」
マジレスする真理亜
裕一「しっかりしたいけど、なぜかしっかり出来ない」
真理亜「しっかりしてないお兄ちゃんがいるから、妹が強制的にしっかりしなきゃ」
軽くdisられる裕一
裕一「真理亜のそういうところ、母さんに似てきたよ」
笑う真理亜
真理亜「お兄ちゃんがボケっとしてるから」
真理亜の顔を見る裕一
裕一「性格もだけど外見も似てきたよね、生き写し」
真理亜「そうかな?私、ママの代わりになれてるのかな」
少しの沈黙が流れる
二人が黙ると波の音だけが聞こえる
裕一「母さんみたいになりたいの?」
真理亜の言葉の意味を問う裕一
真理亜「分からない・・・別になりたいわけじゃないと思う・・・でも私の中の本能にあるのかも。多分、女の人は子供を産んでなくても自然とそう思うんだよ。母親にならなくてはっていう一種の母性がさ」
真理亜は持論を展開する
真理亜「男の人が楽しいと思う空間を守らなきゃいけないのと同じで、女性はそれを支える本能があるのかもね。だから自然と母親のようにならなきゃって思う」
裕一は深く考え込んだ
裕一 声「つまり人は二種類に分けることが出来る。父親と母親だ。真理亜の理論は正しいのか?確かに、空間を守るのは男。もっと言えばそれは父親の仕事だ。真理亜は父との思い出なんてほとんど覚えていないだろう。そんな真理亜のために俺は父親の代わりを務めていたのか?母は厳しい人だった、俺は母親の愛情を知らずに育ったのかもしれない。真理亜は俺のために母親になってくれたのか?いや、むしろ俺の方が真理亜に対して母親を求めていたのか?」
人間関係について考察する裕一
裕一 声「咲は?咲は俺に守ってほしかったのか?父親としての役割を果たし、咲と築き上げた楽しい空間を死守するべきだったんじゃないか?咲は父親のような絶対的に信頼できる味方がほしかったんじゃないのか?もしそうだったとしたら俺にはその役割を果たすことが出来なかったのだ。生きるのには与えられた役割を果たさなくてはならない。でも俺にはそれが出来なかった。人間が二種類しかいなかったら俺はもはや何者でもない。なんて無力で哀れなんだろう、真理亜が聖母マリアとしての道を開き、俺は今、彼女に救いを求めているのかもしれない」
黙っている裕一
真理亜「普通のことだよ、生まれながらにそういう仕組みが備わっているだけ」
裕一は人間関係を踏まえて生死について考える
裕一 声「苦労して生きた先には何かがあるのかもしれないと真理亜は言っていた。そもそも生きるとは一体どういうことなんだ?なぜ苦労してまで生きたいと人は思うのだ?逆になぜ死ぬのだ?役割を果たしたからか?果たせないと永遠に苦しみ続けることになるのか?俺には理解出来ていない。一つ分かるのはこれはらせん階段のように入り組んだ苦痛という名の迷宮を一生回り続けるだけの旅だ」
出口のないゴールを目指していると気づいた裕一は深く絶望する
裕一は席を立ち、波を静かに見つめている
そして母親を求めた
裕一「母さん・・・」
真理亜が裕一を抱きしめる
真理亜「裕一・・・」
真理亜はお兄ちゃんと呼ばず名前で呼ぶ
この瞬間、真理亜は裕一の母親になっている
二人が抱き合ってる姿はこの世のどんなものよりも美しくて奇妙である
二人だけの神秘的な時間が流れ続ける
波はまるで生き物のように激しく揺れている
月夜が二人を照らしている
ノアは抱き合う二人をじっと見つめている
さて、物語もそろそろクライマックスです。残すは二話・・・親子になった兄妹に終焉が迫っています。
引き続きよろしくお願いします!!この作品が気に入った方は他の物語も読んでみてください!!!