「第四話 ペット」
登場人物
風波見 裕一(主人公)
15歳の男の子、妹想い、ソラリスメテオ墜落以降妹の真理亜とともに崩壊した世界を旅しながら母親を探している
風波見 真理亜
心優しい12歳の女の子、好奇心が強い、裕一と旅をしている
御菓子屋のおばあちゃん
死んでいるように見えて実は生きてる、御菓子屋に住んでおり家族が戻ってくるのを一人で待っている
神谷
中年の男性、中学校で数学の先生をしていたらしい
天野 咲
小学生の時の裕一の同級生女子、二年前ソラリスメテオが堕ちる前日に自殺してしまう、生前は裕一と仲が良かった、裕一とは別の中学校に進学していたが中学校ではいじめを受けていた、裕一の夢の中によく出てくる
風波見 良子
裕一と真理亜の母、女手一つで兄妹を育てる、ソラリスメテオが堕ちた日は仕事の出張で家におらず現在は消息不明
ノア
真理亜が見つけたメス猫、風波見兄妹についてくる人懐っこい猫
作家
世界の秘密を知っている謎の人物
「第四話 ペット」
○6 パン屋の前(昼)
雨が降っている、真っ暗な空
パン屋の屋根の下で雨宿りしている裕一と真理亜
いたるところに水たまりが出来ており、辺りは湿気でじめじめしている
真理亜「大雨だね」
退屈そうな真理亜
裕一「梅雨だなぁ、あと一か月くらいはびしょ濡れで生活することになるかも」
真理亜「湿気で頭からキノコ生えちゃうよ、それかコケが生えてくる」
裕一「早く梅雨明けしないとやばそうだ」
空が光る
真理亜「あっ、雷だ」
裕一「植物人間か歩く発電所になるかもしれない」
少しすると雷の大きな音が聞こえてくる
裕一 声「神谷が言ってた水に気をつけろって梅雨のことか・・・」
黒い何かが裕一と真理亜の目の前にやって来る
真理亜「あっ、猫だ」
その正体はずぶ濡れになった黒い子猫だった
真理亜はリュックからタオルを取り出し黒猫を拭く
黒猫はグルグル言いながら真理亜に可愛がられている
真理亜「可愛い!ペット・・・飼いたかったなぁ」
真理亜と猫を見ながら裕一は五年前のことを思い出す
○7 風波見家(五年前回想)
裕一と真理亜の部屋
裕一は10歳、真理亜は8歳
初めてわがままを言う真理亜
真理亜「ペット!飼いたい!!」
裕一「ちょっと待ってて、お兄ちゃんに任せなさい」
裕一は手元にあったペットボトルのジュースを一気に飲んで真理亜に見せる
裕一「ほら!ペット!ペットボトルだ!!」
冗談でペットボトルを見せる裕一
裕一の冗談が通じない真理亜
真理亜「それはペットボトル!!私が言ってるのはペットボトルじゃなくて動物のこと!!」
怒る真理亜
諦めている裕一
裕一「この家は動物禁止なんだし、母さんは動物アレルギーなんだよ。絶対飼えないって」
真理亜に諦めるように諭す裕一
真理亜「絶対諦めない!お兄ちゃんもママに頼んでよ!」
真理亜は諦めない
裕一「俺が頼んでもダメって言われると思う」
真理亜「ダメだったら諦めるから頼んで!!お願い!」
必死に頼む真理亜
裕一「分かったけど・・・期待するなよ」
真理亜「うん、ありがとう!」
○8 風波見家リビング(五年前)
動物を飼いたいと良子に頼む裕一
それを聞いた良子は裕一に怒り本気で殴る
良子「わがまま言わないで!!」
裕一は妹の願いを叶えたい気持ちでいっぱいだった
裕一「ちゃんと自分たちで面倒を見るから!!」
良子「無理に決まってるでしょ!だいたいうちにはお金がないって言うのに・・・私たちはそんな動物なんか飼えるほど裕福じゃないの!」
怒鳴る良子
裕一「たまには子供の願いくらい聞いてよ!今日までわがままを言わずに生きてきたのに!」
負けじと怒鳴り返す裕一
良子「何を言っても無理なものは無理、諦めなさい」
良子は裕一の頼みを聞かず、強制的に会話を終わらせる
裕一はテレビのリモコンを怒りで思いっきり投げ部屋に戻る
○9 風波見家兄妹の部屋
部屋では真理亜が待っていた
真理亜に謝る裕一
裕一「ごめん・・・やっぱダメだった・・・」
裕一の感情は怒りから徐々に悔しさに変わっていた
真理亜「ううん、わがまま言ってごめんなさい・・・」
真理亜も謝ってくる
裕一「お金がないからダメだって・・・」
裕一は真理亜の喜ぶ笑顔が見たかった
裕一は妹の願いを聞いてやりたかった
真理亜「ペットは諦めるよ、ごめんね、お兄ちゃん」
裕一「親なんだから・・・子供の願いくらい聞いてほしいな・・・」
真理亜「うん・・・そうだね・・・」
真理亜は悲しそうな表情をしている
裕一「よし!今度お兄ちゃんが動物園に連れてってあげる!」
真理亜が少しだけ嬉しそうな表情になる
真理亜「ほんと?」
裕一「おう、お兄ちゃんに任せておけ!」
真理亜「ありがとう、お兄ちゃん!」
真理亜は笑顔を見せ裕一に礼を言った
裕一は喜んでいる真理亜の顔を見て嬉しくなる
○10 パン屋の前
雨は止むどころかさらに強くなっている
黒猫を触っている真理亜
裕一「昔、咲のおごりで動物園行ったよな」
真理亜「行ったね、お兄ちゃんが連れてってくれるのかと思ってたのに騙された」
裕一「母親に負けずと劣らず貧乏だったからな・・・」
真理亜「でも、楽しかったね。咲ちゃんと会うの、その時が初めてだったけどすぐ仲良くなれたもん」
懐かしそうに話す二人
裕一「初対面だし年齢も違うのによくすぐ仲良くなれたよな、二人ともコミュニケーション能力が高い」
真理亜「お兄ちゃんは人の気持ちを読むのが苦手だもんね」
裕一「マシュマロを好きになれないのと同じで苦手だからな」
真理亜「好きになるように努力しなきゃダメなんだよ、人の気持ちも理解しようと努力しなきゃ」
的確なことを言われる裕一
真理亜「咲ちゃん・・・残念だったね・・・なんで自殺なんかしちゃったんだろう・・・私も咲ちゃんの気持ちが理解出来てなかったのかな・・・」
裕一「俺だって理解出来てなかった、二年経った今でも理解出来ない」
真理亜「また一緒に遊びたかったな・・・」
黒猫はタオルに包まれていつの間にか眠っている
傘を取り裕一は立ち上がる
裕一「もしかしたら親猫がいるかもしれないから少し探しみる」
真理亜「気をつけてね」
○11 パン屋から少し離れた場所
少し歩くと死んでいる親猫を見つける
裕一は傘を死んでいる親猫のそばに置く
裕一は親猫の前でしゃがんで目を閉じる
目を閉じると裕一には幻聴が聞こえてくる
良子 声「真実の言葉を心臓からえぐり出せ」
咲 声「もう少しだけ頑張ってみようかな」
大蛇 声「お前は生きたいのか?」
目を開ける裕一
そして死んだ猫に喋る裕一
裕一「苦しんだ先に何かあったか?」
死んだ猫は動かない
裕一は死んだ猫を見つめている
裕一「馬鹿馬鹿しい」
そう言って裕一は傘を置いて死んだ猫から離れた
真理亜のいる場所へ戻る裕一
○12 パン屋の前
ずぶ濡れになった裕一
真理亜「傘どうしたの?」
裕一「親猫にあげてきた」
真理亜「親猫いたんだ!チビにゃんこを帰さないとね」
黒猫は先ほどと同じように丸くなって寝ている
裕一「死んでた」
聞き返す真理亜
真理亜「え?」
裕一「傘は死んだ親猫のところに置いてきたんだ」
真理亜「そうだったんだ・・・」
裕一「こいつ、真理亜に懐いてるんだな」
真理亜「そうなのかな?もしそうなら別れるのが辛くなるやつだねー」
真理亜が黒猫を見ながら言う
裕一「俺たちで飼うか」
真顔で言う裕一
真理亜「マジ?」
真顔で聞き返す真理亜
裕一「マジ」
真理亜「冗談?」
裕一「神に誓って冗談ではない、懐いてるなら飼ってもいいと思う」
真理亜の表情が少しずつ笑顔になっていく
真理亜「このチビにゃんこの名前はノアだ!!異論は認めないぜ!」
裕一「お、おう・・・そうなのか・・・なんでノアって名前なんだ?」
真理亜がパン屋の看板を指さす
看板には“のあのぱんや”と書かれている
裕一「なるほど、この店の名前からパクったんだな」
真理亜「それもあるけど、ノアの箱舟ってあるでしょ。あれは動物がいっぱい出るし、動物を助けてあげる話だからいいかなぁって思って」
関心する裕一
裕一「ノアの箱舟なんか知ってるのか・・・博識だな」
真理亜は親指を立てる
真理亜「ディズニーのファンタジアにノアの箱舟の話があるんだよ!ドナルドが出てくるやつ!」
ファンタジアについてよく知らない裕一
裕一「ふぁんたじあ・・・?それならライオンキングから名前を引用した方がよくない?分かりやすいし、猫なんて小型のライオンか虎みたいもんだ。いや、この際阪神タイガースで活躍していた名バッターから引用して金本なんてどう?猫にあえて人間の名を授けるってのも、面白さポイントとしてはかなり高い」
阪神タイガースと金本について知らない真理亜
真理亜「はんしんたいがあす・・・?いや、猫の名前に面白さとか要らないからね。私野球知らないし、ライオンキングは好きじゃないし」
困った顔をする裕一
裕一「タイガースの金本を知らないとは・・・もしやお前・・・道頓堀にカーネルサンダースの人形が放り込まれてからタイガースが優勝出来なくなったことも知らない感じ!?」
なぜか阪神タイガースの話で熱くなる裕一
真理亜「知らん」
知るはずがないという顔をする真理亜
真剣な顔で説明する裕一
裕一「道頓堀にカーネルサンダースの人形を捨ててから、その後阪神タイガースは優勝出来ない呪いにかかってしまったんだ・・・あれは後世に受け継がれし恐ろしい事件なんだよ・・・」
阪神タイガースとカーネルサンダースの話に興味がない真理亜
真理亜「とりあえずにゃんこの名前はノアだ!!やまもと・・・?なんて名前は却下、意見異論は認めない!」
訂正する裕一
裕一「いや、金本ね。山本と言えば中日ドラゴンズで活躍していた最年長勝利記録を更新した伝説のピッチャー“山本昌”のことね!」
阪神タイガースの金本から中日ドラゴンズの山本昌の話を始める裕一
真理亜「お兄ちゃん、私、野球の話興味ない」
熱く語る裕一を前にバッサリと切り捨てる真理亜
裕一「ごめん・・・ノアでいいよ」
真理亜「万事解決だね!」
百二十点の笑顔を見せる真理亜
裕一「おう」
裕一は真理亜の笑顔を見ることが出来て嬉しくなっている
その日は二人と一匹でずっと雨宿りをする