「第一話 500円玉」
登場人物
風波見 裕一(主人公)
15歳の男の子、妹想い、ソラリスメテオ墜落以降妹の真理亜とともに崩壊した世界を旅しながら母親を探している
風波見 真理亜
心優しい12歳の女の子、好奇心が強い、裕一と旅をしている
御菓子屋のおばあちゃん
死んでいるように見えて実は生きてる、御菓子屋に住んでおり家族が戻ってくるのを一人で待っている
神谷
中年の男性、中学校で数学の先生をしていたらしい
天野 咲
小学生の時の裕一の同級生女子、二年前ソラリスメテオが堕ちる前日に自殺してしまう、生前は裕一と仲が良かった、裕一とは別の中学校に進学していたが中学校ではいじめを受けていた、裕一の夢の中によく出てくる
風波見 良子
裕一と真理亜の母、女手一つで兄妹を育てる、ソラリスメテオが堕ちた日は仕事の出張で家におらず現在は消息不明
ノア
真理亜が見つけたメス猫、風波見兄妹についてくる人懐っこい猫
作家
世界の秘密を知っている謎の人物
「第一話 500円玉」
○2 崩壊した世界(昼)
メテオソラリスが落ちてから丁度二年後
隕石が墜落した衝撃で建物はボロボロになっており、雑草が好き放題育っている
亡くなった人々に黙とうを捧げる裕一と真理亜
時間経過
黙とうを終える二人
真理亜「今日で二年かぁ」
裕一「終末世界旅行もいい加減飽きてきたな、隕石が堕ちる前の世界に戻してほしい」
真理亜「えぇー、学校とかないしこっちの方が楽じゃん」
裕一「学校も社会も全てが吹っ飛んだせいで、今の俺たちには常識が全くない」
真理亜「常識なんかなくても生きていけるから大丈夫」
裕一「確かに、それはそうだが。でもこんな崩壊した世界だからこそ少しくらい知識はあった方がいいだろ、数学とか理科とか地理とか?いや、やっぱ多少勉強くらい出来た方がいいぞ。本や図鑑も絶対必要だし」
勉強の必要性を教える裕一だが、真理亜は一切興味がない
真理亜「ふーん」
裕一「いや、ふーんはないだろふーんは。人生の先輩であるお兄ちゃんが言うんだぞ、お兄ちゃんが言うんだからな、お兄ちゃんが言ったんだぞ」
裕一の言葉を無視し真理亜が何かを発見する
真理亜「お菓子だ!!」
裕一「お菓子?」
真理亜が指をさした先には御菓子屋と書かれた今にも壊れそうなお店がある
御菓子屋に駆け込む真理亜
裕一「おい!気をつけろ真理亜!」
慌てて真理亜を追いかける裕一
店の中に入る二人
店の中は薄暗くほこり臭い
たくさんの御菓子が置いてある
老婆が椅子に座っており、真理亜は老婆に挨拶をする
真理亜「お邪魔します」
裕一「真理亜・・・この人、死んd・・・」
裕一が言いかけた途端、突然老婆が動く
御菓子屋おばあちゃん「まだ死んでないよ」
びっくりして腰を抜かす裕一
裕一「すいません、てっきり亡くなってるかと・・・」
御菓子屋おばあちゃん「年寄りだからといって死んでると思い込むのはどうなのかね」
静かな口調でおばあちゃんが言う
真理亜「私は生きてるってわかってた!」
御菓子屋のおばあちゃん「えらいね、ちゃんとわかってるんだね」
真理亜「ありがとう!おばあちゃん、ここにある物で何か食べられそうなのある?」
御菓子のおばあちゃん「ちょっと待っててね」
おばあちゃんは立ち上がり店の奥に入っていた
裕一「あの人、どうしてこんなところに一人でいるんだろ・・・」
真理亜「何か理由があるんだよ」
裕一「というか真理亜、見ず知らずの人にいきなり食べ物を求めるなよ」
真理亜「いいじゃんお腹空いてんだから」
裕一「俺たちだって食べ物を持ってるんだぞ」
真理亜「お兄ちゃんはケチで分けてくれないって知ってるもん」
二人が会話しているとおばあちゃんがカゴにたくさんの御菓子を入れて戻ってくる
御菓子屋のおばあちゃん「好きなのを持って行っていいよ」
真理亜「ありがとうおばあちゃん!」
カゴの中をあさり始める真理亜
おばあちゃんはまじまじと裕一を見つめる
御菓子屋のおばあちゃん「お父さんにそろそろ家に戻っておいでって伝えてくれるかい」
おばあちゃんの言ってることが理解出来ない裕一
カゴをあさっていた真理亜の手が止まる
裕一「どういう意味です?人違いじゃないですか?」
御菓子屋のおばあちゃん「孫の顔は間違えないよ、光と恵子がこんなに大きくなっておばあちゃんは久しぶりに嬉しい気持ちでいっぱい」
裕一「おばあちゃん、ちょっと待ってて!」
真理亜の腕を引っ張りお店の外へ連れ出す裕一
状況がわからない真理亜
真理亜「どういうこと?一体何のこと?」
裕一が深いため息をついた、そして真理亜に状況を説明する
裕一「多分、あの人は認知症だ」
真理亜「認知症?どうしてそんなことわかるの?」
裕一「俺たちを孫と勘違いしてる」
真理亜「ほんとに?ほんとに認知症?」
裕一「断言はできないよ、俺だって認知症のことなんて何年か前にテレビで見て以来だ」
真理亜「じゃあ・・・どうする・・・?」
裕一「事実を伝える、俺たちはあなたのお孫さんじゃないですって」
裕一の提案に猛反対する真理亜
真理亜「お兄ちゃん馬鹿なの?そんなことしたらおばあちゃんが可哀想でしょ、ただでさえ一人ぼっちで辛いのに・・・だいたいそんなことを言っても受け入れるかわからないじゃん!」
真理亜の声と共に二年前の河原の記憶がフラッシュバックする裕一
咲 声「今じゃ毎日が辛くて、しんどいんだ・・・裕一・・・私、どうしたらいいのかな・・・」
裕一の鼓動が早くなり、息苦しさも増す
そして裕一は母親の幻覚を見る
良子「これは自分の内側にある全てが焼けこげるかのような思い、世界で一番重たいトラックに轢かれてもこんな痛みは味わうことは出来ない。でもあなたはそれをかみしめないし、見ようともしない。あの美しかった隕石はそれをあなたに教えようとしている、真実の言葉を心臓からえぐり出せ」
幻覚の母は意味不明な言葉しか伝えてくれない、幻聴を聞きながらその場にしゃがみ込む裕一
裕一を心配する真理亜
真理亜「大丈夫?お兄ちゃん、顔色が悪いよ」
立ち上がる裕一
裕一「ちょっとめまいがしただけだ、大丈夫」
真理亜「結局どうする?」
裕一「うまいこと光と恵子のふりをしていくしかないか」
真理亜「大丈夫かな、そんな適当で」
心配する真理亜
裕一「やればできる」
真理亜は変わらず心配だったが、店に戻る二人
裕一「それで、おばあちゃんはそろそろ寝ないの?孫の相手は疲れて眠いでしょ」
御菓子屋のおばあちゃん「そうだねえ、確かに疲れたけど私はまだ元気だよ」
真理亜「休んだ方がいいよ、お店は私たちが見てるから」
御菓子屋のおばあちゃん「そうかい、なら少し向こうで休んでこようかな、よっこらしょ」
おばあちゃんが立ち上がり裕一と真理亜の方へと近づいてくる、そしてがまぐちから500円玉を二枚出して二人に渡す
御菓子屋のおばあちゃん「これお小遣い、無駄使いせんようにね」
おばあちゃんは500円玉を二人に渡して奥の部屋に休みに行く
おばあちゃんとその家族が写ってる写真を見つける真理亜
真理亜「おばあちゃん・・・」
裕一「目が覚めた頃には俺たちのことなんて忘れてるよ」
少しの間が流れ真理亜は質問する
真理亜「ママも私たちが帰ってくるのを一人で待ってるのかな・・・おばあちゃんみたいに・・・」
真理亜は悲しそうな表情をしている
裕一は曖昧な答えをする
裕一「分からない、そうだといいけど」
真理亜はお菓子と500円玉をリュックにしまう
真理亜「行こう、お兄ちゃん」
裕一もキラキラと輝く500円玉をポケットにしまう
二人はお店をあとにし、旅を続ける