九
話のあいだに外はすっかり暗くなっていたが、途中で女中が行燈に火を入れたので部屋は明るかった。荘内は手ずから行燈の火を蝋燭にうつすと、燭台に乗せた。
廊下をすこし奥に進むとすぐにまた土間となっていて、そこが物置になっていた。荘内宅はもともと蔵だったのを隠居用の離れに改造したものとのことだった。暗闇のなかでよくは見えないが、棚が何台か整然と並んでいて、そこにはかなりの数の置物、人形などが置いてあり、刷り物が幾枚も重ねてあった。荘内が土間に降り、色吉と太助が続いた。
「これですな」
荘内はひとつの棚のうえに無造作に置いてあった木箱を持ちあげた。大きさは、留亜が言っていたよりも小さく見えた。荘内は重いので気をつけて、と言いながら色吉に木箱を渡してくれた。たしかに見た目から想像していたよりもずっしりと思かった。それから三人はさっきの応接座敷に戻った。
「開けてみてもようござんすか」
色吉、太助と荘内はまた向かいあって座り、その間に木箱を置いた。
「どうぞ」
まずは表書きをあらためると、たしかに大きく「來世 沈世繪雙六」とあり、横にやや小振りに「版元 きね屋彌六堂」と記してあった。紐をとき、蓋を取ると下の木盤は板状になっており、双六本体と駒九個、サイコロ二個、大小のお札の重ねたものの部分を、それぞれちょうどその形と指入れの形にくりぬいてあった。
色吉は双六を慎重に取りだすと、畳のうえに広げた。それは留亜の言っていた通りの図版だった。しかし盤面は、赤を基調としてきれいに色がついており、色吉がなんとなく思い描いていたものよりもずっと派手だった。古びてはいたがきれいに保たれており、ところどころ破れなど繕ったり色を塗りなおしたりしたところがあった。
じっくりと眺めたあと、色吉が顔をあげた。「ご隠居さん、こいつをお借りするってわけには、いきませんでしょうか……」




