六
下白壁町の太助と飯を食う機会があったついでに、絵双六探しを頼んでみた。
「べつにかかりっきりで探してくれってわけじゃあ、もちろんねえんだ。気にかけといてくれりゃあいいのよ」
世間は師走というくらいで、あわただしいが、しかし同時に、正月を迎える期待で浮き足立ったような妙にふわふわとした空気だった。
「そういうのはご隠居さんのほうが詳しいんじゃねえか?」
太助はいつものことだが、手酌で飲んでいる。
「もちろん頼んであるよ。ご隠居は顔が広いからな」
「ふん、おいらはついでってことか」
「あんたがついでなんじゃなくて、用がついでだと思ってくんな。太助親分におもちゃ探しみたような餓鬼の使いを頼むわけにゃあいかねえから、御用のついでに見てくれ、ってことよ」
「へ、おだてたってなにも出ねえぞ」
「もちろん頼みごとをするんだ、ここはおれがおごるぜ」
色吉はちろりを取り、太助の茶碗に酒をついだ。
もとより色吉自身も、絵双六探しなどそこまで真剣に受けとめていたわけではなかった。なかったが、いちおう気にかけてはいたので、定廻りのお付きや町歩きのあいまに古道具屋や骨董屋などを見かけ、時間があるときは店に声をかけた。
「沈世絵双六ってのを探してるんだが」
という問いに対する受け答えといえば、
「さあ、見たことがありませんな」
「絵双六ですかい、いろいろ取り揃えてございますよ。……いえ、それはあいにく切らしておりますが、これなんざどうです、負けぬ面白さを保証しますよ」
「うちでは扱ってございませんね」
「ずいぶん以前に一度、お預かりしたような覚えがございますね。……いえ、確かにかと問われれば、そうとも言い難く……そこまでおっしゃるなら帳簿を繰ってみましょう。……ああ、ないですな、どうも勘違いだったようで」
といった調子だった。最後のは明らかにおざなりでよく調べもしていないのはみえみえだったが、文句を言えた義理でもない。
そんなこんなで色吉の立ち回り先では聞きつくしていたから、年の暮れもいよいよ押し詰まってきたころには、色吉は絵双六についてはほとんど忘れていた。
「見つけてやったぜ、例の餓鬼の遊び具だけどな」
昼間に神田の通りでばったり会った太助が、色吉の顔を見るなりそう言ってきたとき、だから色吉は、
「なんでえ、そりゃ」
と応えてしまった。
「ちっ、おめえが頼んだんじゃねえか、はりあいのねえ。例のお化け双六だよ」
それでも一瞬、色吉はなんのことだかわからない顔をしたが、さすがにつぎの瞬間には思いだした。
「ああ、沈世双六か」
「ちょっ、はりあいのねえやつだ」と、太助は繰り返した。




