五
留亜は両手で二尺三尺ばかりの箱を宙に描いてみせた。
「ちかごろ絵双六のことを思いだしたのには、なにか仔細がおありですかえ」と色吉。
「いえ、ほんとにふッ、と思いだしただけなのです。それで、お正月も近いし、懐かしく、また遊べないものかしらと思ったものですから」
「すると、家にあった双六そのものに思い出があって探している、というわけではなくて、沈世双六であればよいということになりましょうか」
色吉は思いついたことを訊いた。
「あ、そうです。だから失せもの探し、というのはちょっと正確ではないんです。沈世双六でありさえすれば」留亜はうなずいた。「いかがでしょうか。お聞きの通り、どうしても沈世双六がなければ誰かの命が危ういとか、うちの店が潰れてしまうとか、そういった危急の事情ではなく、単にわたしの懐古なのです。だからどうしてもお引き受けくださいとお願いするわけにはいきませんが、もし色吉さんさえご関心を持ってもらえれば、ということなんでございます」
「へい、あっしもお姉さんの話を聞いているうちにちいと興味がわいてまいりました。もちろん御用のほうを差し置くわけにはいかねえが、暇を盗んで当たることならできやしょう。正月に間に合うように、とは約束はできねえが、精いっぱい探索さしてもらいやすよ」
「あらやだ、お姉さんだなんて、まだちょっと早いですよ、色吉さん。おほほほほほ。もちろん嫌なわけじゃなくて、うれしいですわよ」
色吉は留緒のお姉さん、というつもりで呼びかけたのだったが、留亜はそんなことを言って照れた。
「なんの話だったの?」
留亜を送りだすと、留緒が興味津々で訊いてきた。
「沈世絵双六を探してくれ、って話だった」
「なにそれ」
「え? おめえさん、子供のころに遊んだろう」
姉さんが言ってたぜ、絵双六が大好きだった、って」
「遊んだ? 遊んだのかな……覚えてないな。小っちゃかったから、忘れちったのかな」
留緒は眉をハの字にして、人差し指を唇の端に当てて首をひねっている。「姉ちゃ――姉は、留緒がその双六を大好きだった、って言ってたの?」
「妹たちも夢中だった、とか言ってたかな。留依さんと留緒ちゃんのことだろ?」
留緒は、ああ、と納得顔になった。
「妹たち、か。そりゃ、留依姉さんと留宇ちゃんのことだね。ひょっとしたら留恵ちゃんもかな」
「そりゃつまりおめえさんにとっちゃ――」
「姉さんたちさ。まえにもちょっと言ったと思うけど、色吉さん、聞いてなかったね」
「おめえさんいったい何人、姉貴がいるんでえ」
「四人さ。そのうちのひとりは死人だけど」
留緒は趣味の悪い駄洒落を言った。




