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続色吉捕物帖  作者: 真蛸
しずみよ双六
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 生まれつき病弱で、他の子供のようにおもてを駆けまわることができませなんだから。だから留依は本当は、お正月だけでなく年中やりたかったのだと思います。でもわたしや妹たちに遠慮して我慢していたんじゃないかって。

 いえ、お正月だって他の子供たちが羽子板や凧をするあいまに、遠慮しいしい遊んでいました。お正月はいとこたちが泊りがけで来たので、誰かしらが留依の相手をしてあげることができたのです。

 さっき、父はわたしたちが夢中になりすぎたので沈世双六を売ってしまった、と申しましたが、本当のところ父は、留依がそれに泥沼のようにはまっていたのが気に入らなかったに違いありません。わたしや他の妹たちは外でも遊んでいましたから。

 留依だけが沈世を、相手をとっかえひっかえ、取り憑かれたように繰り返していました。

 冥府の道を廻ってあがりが成仏というのも、体の弱い娘にとって縁起でもないと、父の気に入らなかった理由のひとつと思います。

 わたしもいまではこの気持ちもわかりますが、子供にとってみてはお化けも妖怪も、幽霊さえも身近なもので、そのときはただおもしろいとしか思わなかったものでした。

 ある年の大晦日、大掃除のあと父に沈世絵双六はどこにあるのかを訊きますと、あれは売ってしまった、との返事。わたしたちはなぜ、と父を責めましたが、そして夢中になりすぎという父の説明にも納得がいかず文句を言ってはおりましたが、もう古道具屋に売ってしまったのだと取り付く島もない父の態度にそのうちあきらめてしまいました。留依を除いては。

 わたしなどは、明けて春にはご新造さんになることが決まっておりましたので、もう子供の遊びどころでもなかったのです。留依も、表向きはおとなしく、そして下の妹よりも早く騒ぐのをやめてしまったくらいなのですが、心のなかではいつまでもわだかまっているようでした。それはそうなのです。他の子供たちには羽根つきも駒回しも凧あげもありますが、留依には双六しかなかったのですから。

 そして沈世双六のない正月を過ぎ、わたしが婿を取り、留依も少し早いがどこか嫁にと決まりかかっていたときに、とんと亡くなってしまいました。

 そのとき父もわたしも、こんなことなら留依に双六をもっと遊ばせてやればよかった、とかなんとか、悔やんだかというとそんなことはなく、ただただ突然の驚きと悲しみで、双六遊戯のことなんど思いだしもしませなんだ。

 ところが最近、なぜかこの絵双六のことをふと思いだして、探してみようかなと父に聞いてちょいと調べたところ、古道具屋とはもう連絡がつかないことくらいはわかったのですが、そこからは素人の哀しさ、すぐに行きづまってしまいました。

 そこでいつも留緒から噂を聞いておりました色吉さんにおすがりしようかと、こうして厚かましくもお願いに参ったようなわけでございます。

 はい、双六の様子でございますね。

 話のついでにも出た通り、厚みのある屏風のような紙で、縦三尺横四尺ばかり、やはり屏風のように四つに折りたためます。

 刷りは錦絵のように色豊富で絢爛、お化けや妖怪の絵は意外に愛らしいものでしたが、幽霊の絵はやはり恨みをもったような、やや残酷の感じのするものでした。

 たたんだときの地紙は黒で、表書きに白い紙が貼ってあり、「沈世絵双六」とありました。他に版元の名前があったようにも思いますが、よく覚えておりません。遊戯に使う札――小札と大札――、駒、サイコロがいっしょに箱に入っていました。子供にとっては両手で抱きかかえてやっと運べるほどの、かなり大きなものでした。


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