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続色吉捕物帖  作者: 真蛸
当主(あるじ)ごろし
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 明け六つの夜明けとともに羽生邸を訪れた色吉は、同心羽生多大有に、伊那戸屋番頭久造の長屋の家探しをすることを報告し、許可を頼んだ。多大有はわかっているのかいないのか、重々しくうなずいた。

 伊那戸屋は今日は臨時休業だが、番頭の久造は早朝から店につめていた。色吉たちが着いたときはちょうど、店の外で若い衆になにか指図をしているところだった。今日は皆、上下とも白――喪服姿だ。

「これはこれは、ごくろうさまです。いま、御内儀を呼んでまいります」

 久造が色吉と太助にていねい腰を折り、店のなかに戻ろうとするのを色吉は止めて、

「いや、今日は番頭さん、あんたに用があるんでさ」

「わたくしですか」

「あんたを疑うわけじゃあないが番頭さん、実はあんたの長屋の家探しさせてもらいてえ」

 久造はぽかんとした顔をしたが、すぐに

「ええ、それは構いませんが、今日明日はわたくし、このとおり忙しくて、寝床に戻るいとまもないかと思いますが」

「なに構わねえ、おいらたちで勝手にやらせてもらうぜ」

 太助が言った。

「え、そ、それは……」

「おや番頭さん、なにか見られて困るもんでもあるんですかい」

 とこれは色吉。

「い、いえ、そのようなことは」

「なら決まりだな」と太助。

「なに、狭い長屋だ、いやこれは失礼、でも家探しったってすぐに済むだろう、一刻もかからねえさ」と色吉。

 太助はともかく、色吉という御用聞はずいぶんとまともに見えたものだが、やはり岡っ引などそこらの破落戸ごろつきと変わらない。久造はため息とともに小者どもの背中を見送った。升弥が店のなかから、なにげない様子で見ていた。


「小者どもが久造んとこの家探しにいったぜ」

「そう、じゃあ」

 升弥の言葉にお紺は目を輝かせた。

「ああ、血のついた匕首と小判が見つかりゃあ、これでケリだ」

「ちゃんと見つけられますかね」

「おいおい、心配になるようなことを言うなよ。まさか床下をさらうことを思いつかねえほどの間抜けじゃあ、いくらなんでもねえ……と思いたいが」

 あの色吉という若いのは、なかなか鋭いところがあったはずだが……しかししょせんは小者。もうちょっとわかりやすいところに隠せばよかったか。しかしわかりやすすぎて久造に見つかっても困るのだ。升弥は顔をしかめた。


 久造の長屋にはほとんど物がなかった。一刻どころか小半刻のそのまた半分で家探しは終わった。しまいには梯子を借りてきて天井裏までのぞいたというのにだ。

「わざわざふたりで来ることもなかったな。……おれは、そとの便所だのごみ溜めだのを見てくるぜ」

 そう言って色吉は久造の部屋を出ていった。

 住人のおかみさんに、ごみは今朝はもう集めたのか訊くと、まだだということなので、ごみ溜めをちょっとあさってみた。しかし関係のありそうなものはなにも見つからなかった。

 便所を見て、なかを浚うべきか腕を組んで思案しているとき、

「おう、色の字の」

 太助の大声がした。

 急いで久造の部屋に戻ると、畳がはがされ床板が何枚かむかれていて、太助が壺を指していた。どうやら床下から拾いあげたらしい。

 それには血のついた匕首と手拭い、小判が六枚、入っていた。

「これで決まりだな」

 太助が言った。

「いや、ちょっと待ってくれ。番頭は、おれには帳場からなくなっている金は六両だと言っていた。あんたが聞いたときもそうだったよな」

「ああ、合ってるじゃねえか」

「だけど、帳場の金を正確に把握してんのは店主と番頭だけだ、って話だったろう。もし番頭が盗んだってんなら盗られた額を正直に言うことなんかないじゃねえか。一両とか二両って少なめに……いや、いっそのこと金を盗られたなんて申告する必要はなかったんだ、もし番頭が盗んだってんならよ。自分で盗んどいて、それがわかるのはもはや自分だけなのに、わざわざ言うか?」

「おう、なるほど、そうか。つまり、どういうことだ」

「それに、すぐにでも借金を返す必要があるってんなら、なんでまだこんなとこにあるんだ。とっとと返しゃあいいだろうに」

「暇がなかったんだろう」

「おれに考えがある。とにかくおれに任してくれ」


 夕刻、神田下白壁町の太助の長屋で色吉と太助が話しているとき、上野と浅草でお紺と手代の足取りを洗っていた卒太と根吉が帰ってきた。ずいぶんと息を切らしているのでわけを聞くと、

「えらい目に会いやした」

「馬道の、あの岡っ引にめっかって追っかけられて逃げてきたんでさ」

「あの同心の宇井野様の子飼いの、あの……」

 卒太と根吉が口々に言った。

「ああ、あいつか」

 太助がうなずいた。

「うん、あいつだな」

 色吉も言った。

「でも調べのほうはちゃんとやってきやしたぜ。めっかったのは終わったあとだったんで」

「たしかに寺には百日詣でで通ってるそうで、昨日は九十なん日だか目だったそうでやす」

「寺に着いたのは、さて、八つ半か七つか、七つ半よりはまえだったと、はっきりしやせん」

「伊那戸屋のお内儀ふうの女と手代風の男、それらしいのが色吉親分の書きもの通りの店で、昨日のひる前後にあらわれてやした」

 ふたりの報告を聞いて太助が、

「じゃあお内儀と手代がずっといっしょに行動していた、ってのはほんとだってわけだ」

 と言った。

「いやいや待ってくれ、いまの話を聞いた限りじゃ、お内儀と手代は寺に着いてからあとはいっしょのところを見られてるが、そのまえについちゃわからない、ってことだ。つまり、お内儀は女の足だからそのまま歩いたとして、男の足ならとちゅう引っ返して、店主をどうにかすることだってできたろう」

「うむむ。わからなくなってきやがった」

「だからよ、こういうんでどうだ」


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