五
例によって柳原堤下の小料理屋、桐里で色吉と太助は晩飯をとっていた。
「いろいろ聞いた話をまとめると、流しの強盗、っつうよりは番頭が怪しい、ってとこか。来年早々の婚礼のために、博打の借金を返しときてえ。当面、早急に返さなけりゃならないのが六両くらい。いま店の主人になにかありゃ、店を継げる。朝の忙しい時間はばたばたしているから、だれにも見られねえで裏庭の蔵や帳場の座敷にも行ける」と太助。
「住んでる長屋も近いから、返り血を浴びても着替えくらいならすぐにできそうだな」
色吉も言った。
「よし、明日にでも、久造の長屋の家探しでもしてみるか」
太助は茶碗をぐっとあおる。中身はもちろん酒だ。
「ああ」
「羽生の旦那のほうはだいじょうぶだよな」
「ああ」
「なんだか乗り気じゃねえな、気になることでもあんのかよ」
「番頭の家探し、そいつは問題ねえ、やろう」
色吉が言い、茶を飲みほした。「気になることはまあいくつかある。あのお内儀さん、亭主の死にざまだの、死んだ時刻だの、周りの様子だの、まったく訊いてこなかったんだが、あんたにはどうだった」
「む。おいらのときは、こっちの質問に答えるだけだったぜ。寺に百日詣でに行ってた、旦那と自分の厄落としのためだ、去年も行った、十日にいっぺんは手代を連れてって、店を回る」
「おれんときもそうだ。話の中身も一致するな。で、旦那の様子なんどは訊かれなかったのかえ」
「訊かれなかったな」
「亭主のことが気にならないもんなのかね、ってのがひとつ」
「突然のことで頭がおっつかなかった、のかもしれねえ」
「あるいは、亭主がどうなっているか、もう知っていたから訊く必要がなかった」
「疑りぶかいな、おめえは」
「思いついたこと言ってるだけだ。それで、手代のほうはどうだえ」
「あたりまえの話だが、お内儀さんと言ってることはいっしょだったぜ。五つに出て八つに帰ってくるまで、お内儀さんに付き添って寺、店、中食、甘味処に行ったとよ」
「そうだ、御内儀に行った先を聞いといたから、明日手分けして当たってもらいてえ」
店は十軒たらずで散らばっているわけではないから、太助の子分の卒太と根吉に頼むことにした。
「おめえのほうは、手代の感触はどうよ」
太助が言った。
「ご当主の殺された蔵で話したんだが、長衛門が倒れてた近くに、一両小判が何枚か置いてあって、下手人はなんでこいつを盗っていかなかったのか、つう疑問を話したところ、だ。手代の答えて言うに、今はそいつに日が当たって見えてるが、朝のころあいには日は違うとこに当たってて、見えなかったんじゃないか、とこういうわけだ。これもひとつ、気になるとこだな」
「理にかなってるじゃねえか。それのどこが引っかかるのよ」
「ところが蔵には、当主と番頭しか入ったことがねえ、つう話だったろう。こいつは番頭が言ってたし、それから手代自身も自分は蔵に入ったことがねえと言ってたんだ。初めてなかに入った、て割にそんなことにすぐ気がつくなんざ、勘がよすぎねえか。現に若衆だの丁稚だのでそんなこと思いついたやつなんざひとりもいねえ」
「切れ者だって評判だったじゃねえか。おめえ、自分の気づかなかったことに手代が気づいたのがおもしろくねえだけじゃねえのか」
「引っかかることが多すぎるんだよな」
色吉は腕を組んだ。
そのあとしばらく翌日の打ち合わせをして解散した。




