八
三日ほどは離れの土蔵に引きこもっていた。しかしここしばらく、伝造のせいもあって若い女の、顔を見る機会すらなかった。連朝会の若者たちは爆発寸前だった。
「どんなんでもいい、ちいとそこで物色して、連れてこいよ」
弥佐武郎が言った。
玉史郎が路地から通りへ出たとき、ちょうど若い女がこちらに歩いてくるのが見えた。なにかの師匠風だが、楽器は持っていなかった。
――いや、それほど若くもねえか。
ずいぶんと化粧が濃い。これは二十を二つ三つ越えていてもおかしくない。大年増もいいところだが、しかし顔立ちは抜群で、その粋な装と色気のある身のこなし、そそり立てるものが確かにあった。
――弥佐武郎も女ならだれでもいいと言っていたし。
それにこういう気の強そうなきりっとした女をいたぶってひぃひぃ言わせるところを想像すると玉史郎はむずむずしてきた。彼の嗜虐趣味を駆り立てるものがあるのだ。この女に決めた。
「うっ、いたたたた……」
玉史郎は腹を押さえてしゃがみ込んだ。
「あれ、どうされました」
ねらい通り女が声をかけてきた。
「いや、急に差し込みが……。イタタ、これでは歩けん。すまぬが寓居はすぐそこなのだ、ほんの数間ばかり肩を貸してはいただけぬか」
「え、お易い御用で」
女が肩を貸してきた。白粉のにおいを嗅いだだけで、玉史郎の股間ははちきれんばかりになった。
「そこの土蔵が、離れになってるんで」
武士の口調もはがれて地金が出る。
裏木戸を入って、土蔵の入り口まで、玉史郎は女にがっちりと腕を回し離さなかった。
「このへんでようござんすか」
女が言った。いくぶん戸惑っているようだ。
玉史郎はそれにかまわず扉を開け、「みやげだ」と言い、女を突きとばした。
弥佐武郎が「おう、早かったな」と言った。女を見て、「なかなか上玉じゃないか、少々薹は立っているようだが……」
「あにさんら、あたしをどうしようってんだい」
女が言った。怯えているのか、声が裏返っている。
「別に、悪いようにはしないよ」
庄太が言いながら土蔵の扉を閉める。
「あにさんら、いつも女にこんなことをしてるのかえ」
「あんたのようないい女だけだよ、ありがたく思いな」
弥佐武郎が寄ってきた。
「暴れてもいいぜ、へへ」
玉史郎が女を殴るところを想像してうっとりと涎を垂らさんばかりの顔になっている。
「あれえ、だれか、助けておくんなんし」
女が裏返った声を張りあげた。
「無駄だよ、声がおもてにまで漏れることはない」
弥佐武郎が言った。
「しかしなんで遊女みたいな口調になってるんだ。ねえさん、なかの出か?」
玉史郎が言い、女に迫る。
「いけねえ、なんだかよくわからなくなってきやがった」
女の声が急に低くなった。
「こないだの初物の娘は弥佐さんにゆずったんだ、このねえさんはまずは俺がもらうぜ」
しかし夢中のあまりそんなことにも気づかない玉史郎が、女に襲いかかろうとしたそのとき。
「待ちな」
扉が開いて、太った坊主頭の岡っ引が入ってきた。うしろに手先をふたり、従えている。
「話は聞いたぜ。播甲屋弥佐武郎、日城屋玉史郎、磨山屋庄太、神妙にお縄を頂戴しろい」
連朝会の三人は狼狽した。
「おい、この女がどうなってもいいのか」
玉史郎が女を背後から羽交い絞めにする。
岡っ引はそれをちらりと見て、
「勝手にしろい、できるもんならな。ああ、ひとつ言っとくと、そいつは女じゃないぜ」
え、と思ったときには投げ飛ばされ、玉史郎は気を失っていた。
弥佐武郎と庄太は岡っ引たちに殴りかかっていったが、逆にさんざんっぱら殴られることになった。ことに手先のひとりの恨みの籠った拳は、弥佐武郎を傷めつけ過ぎた。




