五
羽生多大有の出仕に供して、番所のまえで旦那を送りだしたとき、
「色吉の親分」
と声がかかった。根吉だった。目が赤く腫れていた。
根吉とともに中川の川辺に駆けつけた。いつもなら太った根吉は大きく遅れるのだが、今日は色吉に先導してよく走った。
野次馬の中心にあったのは、無惨な女の遺骸だった。
「つ、地面んなかから、野良犬が掘り出したんでさ」
胸といわず腹といわず脚といわず腕といわず、とにかく体全身についた痣、やはり体中についた細かい黒い火傷の跡、腫れあがって変形した顔面、髪はザンバラ、歯は一本もなく、眼球も片方がなかった。着物といえば、ぼろきれのようなものが申し訳ていどにまつわりついているだけだった。
「土のなかじゃあ腐りにくいってことを差っ引いても、まだホトケさんになってからそんなに経っちゃいねえな。一ん日か二日、せいぜい三日ってとこだ」
色吉は検分し、それから根吉に向き直った。「どうだい」
「変わり果てちゃあいるが、お種ちゃんに間違いねえ」
色吉と根吉は、ご検視役の宇井野が来るまえに引きあげた。
淡路町の伝造は離れに入ってくるなり、弥佐武郎を殴った。
「な、なになさるんで」
頬を押さえ、弥佐武郎が言う。
「バカ野郎どもが」
玉史郎と庄太にも拳固を振りおろす。
「間抜けどもが、死骸が見つかったぞ。だから深く埋めろと言ったんだ」
腹立ちまぎれにさんざん暴力を振るう。
「だから当初のもくろみ通り、大川に捨てておけばよかったのだ」
「そうだ、あの辺は流れの加減からか、死骸はうまいことあがらないのに」
半泣きになった庄太と玉史郎が口走った。
「おい、なぜそんなことを知っている」
二人はあわてて口を閉じたが、さらに殴られ蹴られ、実は前にも若い娘を二人、同じように扱い、最後に川に捨てたことを白状させられた。さすがの伝送もあきれ果てたが、
「しかたがねえ、とにかくお番所に手え回す必要がある、先立つものを出しな」
さらに伝造は、播甲屋、日城屋、磨山屋を回って大金を入手した、ということを弥佐武郎たちはあとで知った。
その夜、太助たちの話を聞いて色吉は息を飲んだ。
「そんなことって、あんのかい……」
太助と卒太はお種の母親のお美濃を、川縁の現場に連れていったのだ。そこでご検視同心の宇井野に言われるままお美濃にあれを見せてしまった。太助たちも、お種の亡骸があれほど無惨なものだとは知らず、気がついて止めようとしたときにはもうあとの祭りだった。
お美濃は泣きながら遺体にすがりつき、しばらくすると覆いかぶさったまま泣きやんだ。周りはしばらく神妙に見守っていたのだが、あまりに静かだったのでお美濃を抱え起こしてみるともう死んでいた。
そして娘と女房の死を伝えられた君弥もまた、病床でそのまま息を引き取ったという。
「おっ母さんは、お種ちゃんがいなくなってからもしばらくは気丈にひとり働きに出てたんだが、五日くれえ前にとうとう倒れちまった。心労が続いていたからなあ、あんなもん見せられちゃア、それが最後の一太刀になっちまったんだな。おっ父さんも、そりゃあいっぺんに二人に死なれちゃあ」
根吉の目はまた真っ赤になっていた。




