十四
「賊ども、御用である、神妙にいたせ」
倒れていた黒装束たちを縛り、店のなかも火の心配がなくなり、庭でも色吉と太助が一味を縛りあげたころ、宇井野が入ってきた。武佐蔵をあたまに宇井野子飼いの小者や手先たちがつき従っている。
「賊どもを捕縛せい」
宇井野が颯爽と十手を振るった。小者たちは賊のところへ散らばったが、黒装束たちはすでに縛られていたから、かたちだけ押さえるような格好だった。
「よし、よし」
宇井野は満足げに言い、それから柱にもたれている羽生に目をやった。
「そういえば人質にされた間抜けな同心がおったな。なんだ、気絶しているのか」
そこに色吉がやってきて、多大有の様子を見て慌てた。発条切れだ。
「いけねえ、旦那、しっかりしてくだせえ」
駆けよって揺さぶるふりをする。「どうも煙を吸い込んじまったようだ。早いとこ医者に連れてかねえと」と大声で言う。
「ふん、だらしのないやつだ」
宇井野は言った。それからやっと色吉に気がついた。「おまえもいたのか」
「へい、いっしょに捕まっておりやした」
「やれやれ、同心が同心ならその手先も手先だ」
宇井野はあきれはてた、といったていだった。
「旦那、堪忍してくんなさいよ」
色吉は言い、樽と龍、それから太助と子分たちの力も借りて、多大有を大八にくくりつけた棺桶に入れた。
「おい、蓋までするのかよ」
太助が困惑している。「縁起でもねえ」
「だって棺桶に入れて運んでるとこなんぞ見られたら、まるで旦那が死んでると思われるだろうが」
「む……」
おかしなねじれだが、色吉の言う通りかもしれない。
旦那を運ぶのは樽と龍に任せ、色吉たちは八丁堀の羽生邸に向かうことにした。またしても手柄を譲ることにはなったが、それでもきっと、今日の事件の話を歩兵衛は喜ぶに違いない。
〈了〉




