十一
少ししてふたたび惣衛門を先頭に頭目と十人の賊が出てきた。十人は皆千両箱を抱えていた。頭目は惣衛門を突き転がすと、懐から短刀を抜き肘を引いた。
――野郎、刺すつもりだ。なんとか止めなけりゃ……
しかしもう間に合わない。
色吉が思わず伏せていた首をあげたそのとき、短銃の轟音が響いた。左耳がびゅんという空気を裂く音を捉え、首筋に風を感じ、左肩の着物がチッと音をたてて裂けた。弾丸がかすめたのだということはすぐにわかったときには色吉は明り取りから外に落ちていた。
庇屋根を転がり、木の枝に引っかかり、くるりと回り木の葉のなかを枝に引っかかりながら落下したおかげでかすり傷は負ったが地べたに着いた衝撃はそれほどなかった。
すぐに体を起こすと、正面に短刀を構えたまま驚いて目を丸くしている頭目がいた。そのまえでへたりこんでいる惣衛門も目を丸くしている。
考えるよりも先に体が動いた。頭目の足に突進して体当てをかまし転ばせて馬乗りになり顎を殴った。頭目は気絶した。
後頭部に風を感じ、とっさに身を横に転がすと、千両箱が頭目の腹のうえに落ちた。頭目は「ぐえっ」と蛙を踏みつぶしたような声をあげた。色吉はばね仕掛けのように跳ねてそいつの顎を殴る。十手を取りだし、目についた黒装束を片端から殴り倒していった。
妙なやつが上から落ちてきて、おかしらに襲いかかったのを見て、鬼黙団のひとりは母屋に走った。裏口をあけ、
「ひきあげだ!」
と言った。
残っていた壱の兄貴が、人質どもから離れて店の中ほどまでさがった。石を打って火種を作り、火口を吹いて種火を大きくする。大きくなったところで、付け木に移し、それを人質たちのところに放ろうと腕を後ろに引いた。
壱の覚えている限りでは、周りにはなにもなかった、はずだった。そのくらいは当然確かめてあった。
ところが腕を引いた先に、なぜか着物がぶらさがっていたのだ。それもついさっき、たっぷりと火薬をまぶしたやつだったからたまらない。着物は爆発音をたてて一気に燃えあがり、壱の黒装束にも燃え移った。
と同時に巻き起こった爆風に投げ出され、倒れ伏した。「がっ!」胸を強打して肺から出た声も麻痺した耳には聞こえなかった。
衝撃に頭がかすんだが、もたげた目に人質どもが動揺して逃げだそうとしているのが映り、やつらにも火を付けてやる、と壱はかすんだ頭で考え短銃を抜いた。火薬を撃てば爆発が起こり、こいつらを、いや店の半分がとこぶっ飛ばせるだろう。




