十
太助が路地から通りに出たそのとき、ちょうど根吉が駆けてきた。そのうしろから土煙をたてて異様な軍団がやってきた。
根吉は、
「親分――」
と言ったきり、両手を膝についてぜえぜえと肩で息をしている。
うしろに目をやると、異様な軍団の先頭は顔見知りだった。
「あんたらは」
黙礼してきた二人は、羽生歩兵衛の駕籠かき、樽と龍だった。
ふたりとも大八に棺桶を積んだものをひいている。他に二十人ばかりも同様にして続いていたが、棺桶を二個積んでいるのは樽と龍だけだった。
「水を運んできました」
樽と龍のほかはみな町火消しで、おそろいの袢纏をまとっていた。あちこちの用水路や川から直接水を汲んで、棺桶に入れて運んできたという。
「たしかに水をたくさん、って話だったが、なんだってこんな馬鹿正直に」
太助はあきれるやら感心するやらで目を白黒させた。
「色吉さんの指示ということで、あっしらが手配させてもらいやした。差し出がましい真似をしてすいやせん」
樽が頭をさげた。
「いや、そんなことはねえ。だけどこっから先は危ねえんで、ここで控えてくんな」
しかし二十個以上の棺桶がずらりと並んだところは壮観だった。




