八
銃声が響き渡るたび、人質たちの怯えが増す。
――やりたい放題やりゃあがって。
しかしさっきから短銃を放っている賊は、黒装束のうちのひとりだけだ。盗賊団の多くが銃を持っているかもしれないと考えたが、そんなことはないのかもしれない。
下では店主が頭目とおぼしき黒装束に追い立てられて店の奥の戸をくぐるところだ。店の東側にあたり、裏庭に通じる口である。
色吉はひたひたと中腰で梁のうえを急いだ。幸いのことにこちらにも明り取りが開いていて、しかも薄暗かった。梁のうえに這いつくばり、頭をもたげて目だけで外を覗く。
店主惣衛門を先頭に頭目が続き、さらにいつの間にか十人の黒装束が続いている。手慣れた、統率の取れた集団だと色吉は感心した。
頭目は惣衛門に土蔵の鍵をあけさせ、扉を開かさせ、中に入るのに先導させた。
五人づつ数珠繋ぎにした人質どもが六組できた。それぞれの雨戸のまえにならべる。
「ほれっ、しっかり立ちやがれ。あの莫迦傾奇みたようになりてえか」
ともするとしゃがみ込みそうになる年寄りや女も、こう脅すと力を振り絞って立ちあがる。やはりあの傾奇にとどめを刺さなかったのは正しかった。壱はいつしかそれが自身の手柄かのように錯覚していた。
一方で壱には気になることがあった。
人質は店の者と客で、いま土間に立たせているほかは、転がってうめいている莫迦傾奇と木偶同心、それから店主だけのはずだった。しかしいま土間を見ると、履物が三足ある。ひとつは莫迦の下駄、一つは木偶の草履とすると、もう一足の草鞋は誰のものだ? 店主の草履はさっき裏に出るために持っていった。団のものたちは始めから畳のうえでも土足だ。
もうひとり、どこかにひそんでいやがるのか――?
「おい、外の見張りを頼む。おもてに出てくるやつがいたらかまわねえ、ぶっぱなせ」
仲間のひとりに言いつけ、壱は畳にあがった。
箪笥や帳場、身を隠せそうなところをあたるが、どこにも隠れているやつはいない。思いすごしか、と考えたとき、まさか、と頭上を振りあおいだ。
いやがった――!
ほぼ東側の壁沿いに、梁にうつぶせるように隠れている曲者を、壱の鋭い眼がとらえた。




