七
壱は厳しい顔で覗き窓から外をうかがっていた。
「とどめを刺さずにおきゃあ、いつまでも苦しませることができる。そのうえ周りの奴らへの見せしめにもなるってわけだ。さすが兄貴だ」
と背後から仲間が言った。
「おう」
なんでもないように応じたものの、考えていることは違っていた。
どうもさっきから手応えがおかしい。あの傾奇者きどりの若造といい、おもての捕方どもといい、なぜか狙った急所を外している。まあ飛び道具はそういうものだ、仕方ないにしても、短刀で刺した若造までもとどめを刺せないとは。自分の腕が鈍った、とは信じられない。
まあ、今日は自分でも気づかぬくらいの熱でもあるのだろう。あいつの言うとおり周りへの脅しにもなってかえって怪我の功名というものかもしれん。壱は気にしないことにした。
「怪我人の運搬だけでもさせてくれ」
岸摩屋の出入り口から目だけを覗かせるようにして、宇井野が言った。
摂津屋からの反応はない。
「もうちっと大きな声じゃねえと聞こえないんじゃねえですかい」
背中から太助が言った。宇井野は目を血走らせて振り返った。
「なにを、貴様、まだいたのか! とっとと――」
とここで考え直して、「ならば、おまえが賊と交渉せい」
「へい」
太助はまえに出た。「おい、怪我人を運ぶぞ! 撃ちたきゃ撃ちやがれ!」
太助は店内を振り返り、何人かいた小者や手先に声をかけた。「何人か手ェ貸してくれ」
多くが尻込みするなか、ふたりが立ちあがった。




