六
頭になにか当たった。きょろきょろとあたりを見回すと、卒太が地面からなにかを拾いあげた。
「親分、こんなものが」
紙礫だ。
「怪我はありやせんか」
根吉が言った。
「おう、なんとかな」
「さすが親分、毛がねえ」
三人ははっはっはっ、と笑って、
「おいらを御用聞太助と知って狙いやがったか。腕っこきはつらいぜ」
「親分、こいつ、なにか書いてありやすぜ」
卒太が紙礫のしわを伸ばしている。
「なんと書いてある」
「ええと、カヤクアリミズタクサンヨウィ、とありやす」
「なにい」
太助は卒太から紙をひったくった。「む、こいつは色吉の筆跡じゃねえか。『火薬あり、水たくさん用意しろ』ってことか」
見上げると、摂津屋の明り取りが暗く口を開けている。
「野郎、店んなかにいやがるんだな」
「最後の『イ』が小せえのはなんの意味があるんでやすかね」
「いや、でけえ字で書いたもんだから幅が足んなくなっただけだろう。あすこは陰で暗えから字が大きくなっちまったんだ」
太助は明り取りを顎で示した。子分ふたりは感心して聞いている。
「なんてのんびりしてる場合じゃねえ、早えとこ知らせにいかねえと」
太助は路地を大通りに戻りかけて、「卒太、おめえはここにいてくれ、また紙礫が降ってくるかもしれねえ。根吉は火消人夫を呼んできてくれ」
賊どもの動きが気になって、色吉は梁を伝って店の中央へんまで戻っていた。
盗賊団が人質を横一列に並べ、五人ほどづつ後ろ手に縛ったうえ腰縄で数珠繋ぎにしていた。
「ひいっ」
「静かにしろ」
騒ぎたてる人質を黒装束のひとりが鋭い声で制する。「こいつみてえにされてえか」と、転がっている傾奇男を足で示す。
なにしろ賊が人質たちに、頭から黒い粉をふりかけ始めたのだ。そのキナくさいにおいに思わず漏れる悲鳴を、人質たちは必死で抑える。
――なんてやつらだ。
店のみならず、人質に火を放って混乱を起こそうとしている。黒い粉は、店内に空中陳列されている着物にもふりかけられた。
宇井野は摂津屋とは通りをはさんで反対側の、岸摩屋という店にいた。捕方たちも道に置いてある台車だのぼんぼりだののうしろにひそんでいた。隠れているつもりなのだ。
「また来たのか。賊に見られるだろうが」
宇井野は太助を店に引っ張りこんだ。野次馬の退散が終わったら、おまえも退散していいぞ、というかとっとと帰れ」
「それどころじゃねえんで、店んなかに――」
宇井野がうるさそうに追い払おうとしたとき、摂津屋からまた雷鳴がとどろいた。
まえの道で捕方が腹を押さえて倒れるところだった。
宇井野が立ちあがって向かいかけたとき、
どおん! どおん!
二発の轟音とともに、倒れた捕方に駆け寄ろうとした仲間の捕方がふたり倒れた。宇井野は凍りついた。
「まだ退散してなかったのか。こうなったら、店のまえを通るやつは、だれ彼かまわず撃ってやるからな!」
摂津屋のなかから大声が言った。
撃たれた三人は店のまえで転がってうめき声をあげているが、助けにいくものはいない。




