四
「どうしやしょう。踏み込みやすか」
武佐蔵が言った。
「しかし、なかの様子がわからぬのではな」
宇井野は戸板に乗せられ運ばれていく下っ引を横目に言った。
「あんな奴らをお膝下でのさばらしとくわけにゃ――」
「わかっておる」
踏み込んだところで、さきほどのように飛び道具で反撃を受けるかもしれない。人質も殺される。
犠牲者が出るのは仕方がないにしても、相手の火力がどれほどのものかわからないことには、被害を出しながらも連中を捕縛できるか計りようがない。万が一、何人かでも捕り逃がすようなことになれば、責任はまぬかれまい。
「ひいっ」「きゃっ」「ううぅ」
店のなかから悲鳴があがる。押し殺しながらも漏れてしまったようなうめきだった。
「ぬう。なにがあった」
宇井野が店のほうをにらむ。
卒太と根吉が拾ってきた話を聞いて日本橋に駆け付けてきた太助は立ちどまって思わず舌打ちした。どうやら指揮官は宇井野のようだ。名前は忘れたが馬道の岡っ引となにやら話している。
「ご苦労さんでやす」
しかしせっかく来たのにこのまま帰るのも業腹だ。太助は宇井野に話しかけた。「なにかおいらにできることはありゃすか」
宇井野が振り向いた。
「なんだおまえらは」
太助は気を悪くした。ついこないだも顔を合わせたろうに、宇井野は自分のことを忘れているのか、はじめから眼中にないのか。
「こいつらは羽生殿の手先でさ」
馬道が言った。ちょっと違うけど、面倒なので訂正はしない。
「あの抜け同心の手先にできることなぞない。……いや、野次馬の退散でもやっていろ」
太助の顔に不満が浮かぶと、
「できぬならばこの場からおまえが退散しろ、邪魔だからな」
と言うので、太助と子分ふたりはしぶしぶ野次馬のほうに向かった。大半の野次馬はすでに宇井野の小者や手先たちが押さえていたので、隣の店との境の路地に入ってみる。




