五
「そのあとあちこち探しまわったんですが、どこにも見つからねえんで。長屋に戻ってもねえし、根吉んとこにも卒太んとこにもいねえんでさ」
さすがの色吉も困り果て弱気になっている。「ひと晩まんじりともしねえで、夜が明けてまた長屋に行ってみたんですがいねえ、根吉んとこにも卒太んとこにもいねえんでさ」
その足でこうして羽生宅にやってきたのだ。
「龍と樽から聞いたが、昨日から御府内のあちこちで光る玉が目撃されとるそうな。ここ八丁堀から、深川、両国、浅草、神田……。しかし人が消えたというのは初耳じゃった」
歩兵衛が言った。
「あの光る玉と、太助の神隠しは関係あるんでやしょうか」
「うーん」
歩兵衛は腕を組んで考え込んだ。「どうかのう」
「あの野郎、ふだんの行いがよっぽど悪いから、天罰でやしょうか」
もちろん歩兵衛といえど答えようもない。
「失礼します」
座敷の外から声がかかった。留緒の声とは違う、ずいぶんと大人びた女の声。はたして襖を開けて入ってきたのは思永だった。
歩兵衛と色吉のまえに茶を置いて、「ごゆっくりどうぞ」着物さばきの見事さはますます、あれから数日しかたっていないのに言葉も不自然なところはすっかりなくなっている。
色吉が唖然とし感心しているあいだに思永は襖を音もなく閉めて去っていった。
「お思永さん、なんだかすっかりなじんでやすね」
「うむ、理縫もなついてしまってな。家のことでは、留緒も頼りにするようになった」
「へえ、そうでやすか」
と色吉は感心した。それから、「そろそろ旦那の出仕のころあいでやすから」と言って立ちあがる。
隅にいた多大有もまったく途切れのない所作で滑らかに立ちあがった。
「失礼します」
計ったかのようにまた外から声がかかる。襖を開けたのは先ほど同様、思永だったが、脇に大小を置いていた。
「お腰のものをお持ちしました」
そう言いながら刀を部屋に入れ、自分もにじり入り、振り返って襖を閉じ、ふたたび刀を持って多大有のもとに運び手渡した。一連の動作がよどみなく、色吉も見とれるばかりだった。
羽生は刀を受け取るとひとつうなずき、歩兵衛にも一礼すると座敷を出た。色吉はそれに従う。そこにさらに思永がついてきた。
廊下を歩いているときに庭から、
「お思永たん」
と理縫が呼びかけた。思永は振り返り、
「あとでね」
と言ってそのまま歩き続けた。
玄関口にて、
「お気をつけて行ってらっしゃいまし旦那さま」
と言って羽生の肩口に、いつのまにか持っていた火打ち金と火打ち石でかちかちと切火した。色吉はその様子を唖然として見ていたが、多大有が行ってしまっていることに気がついてあたふたと追いかけた。




