四
桐里は柳原の、太助いきつけの小料理屋だ。色吉も太助のつきあいでよく行く。
夕刻、色吉が太助と連れだってその桐里に向かっていたときのことだった。
いつの間にやら、すっかり夏も盛り、柳原土堤の川風が心地いい。行き交う人たちのなかには半裸に近いものもいる。太助も袢纏を尻っ端折りにしていた。
「おい、なんだありゃ」
色吉が言った。夕焼けの黄金空に、月よりも、いや、夕方の太陽よりも明るい丸いものが浮かんでいる。みるみるうちに周囲もざわざわと騒がしくなった。
「流れ星だろう」と太助が言った。
「あんなでかい流れ星があるか。だいたい流れ星なら流れるだろう」
いまや誰もが足をとめてその光るものを見上げていた。見ているうちに、それが四角くなり、それからぐにゃぐにゃと雲のような形になり、丸に戻り、またぐにゃぐにゃに、と形が一定しなくなった。
「あっ」「いやーっ」「うへえ」
そこここで悲鳴や驚きの声があがる。頭を抱え体を低めて逃げだすものも出始めた。
そして光るものはそこでひときわ輝いたとみると、しぼむように縮んでいき、とうとうなくなった。
「なんだったんだ、ありゃ」
色吉は太助を振り返ったが、太助はいなかった。




