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三
何日かして、用があって羽生邸にあがりこむと、茶を運んできたのが異人女だったので色吉は目を丸くした。
「へええ、ずいぶんとおなじみになりんさって」
髪をご新造さん風に島田に結いあげ、着付けも若妻風で裾さばき袖さばきも様になっている。
「ソチャデゴザイマスガ」
「なんと、言葉まで」
帰り際に裏庭を見ると、留緒と思永が洗い物を干していた。理縫がその周りをうろちょろと走りまわっている。
「お思永さん、薪をお願い」と留緒。
「おしえたん、まちをおれがい」と理縫。
「オシエタン、マチガイオレカイ」
思永が最後に繰り返して、たすきで袖を端折るのも堂に入ったもの、薪を割りはじめた。




