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九
「倅はわしのためを思って博打をやめさせたということなんですがね」
熊吉老人が続ける。「でもあいつは、わしのせいで母親――わしにとっては女房ですが――が死んだと思ってる節がある。わしのためと言いつつ、わしの張り合い、生きがいみたようもん奪って、復讐をしたんじゃねえか、って、あいつになに不自由ない暮らしさしてもらってバチが当たるかもしれんが、そんなふうに考えてしまうです」
太助は同情したような困ったような顔をしたが、なんと言っていいかわからなかった。卒太と根吉に目をやるとふたりとも、うとうとと寝たふりをしていた。
〈了〉




