十七
あの満月の晩から半月、色吉の知る限り是坊の出入りは正門からも、横の通用門からもなかった。暇を見てはまた例の雑木林から見張っているのだが、他の御用もありなかなかずっと見張り続けるわけにはいかなかった。
太助にも力を貸すよう頼んでいるのだが、
「またこんだの月夜の晩でいいじゃねえか」
「だからいまのうちに、つぎに狙われる娘を見つけときてえんだ」
「あの屋敷を見張ってたからって、そんなもん見つかんねえだろう。こないだんことでよくわかったはずだぜ」
と、首を縦に振ってくれないのだ。
月も改まり、六月。そろそろ梅雨も明けたらしく、晴れた日が多くなってきたことが救いだった。
「もうちょっと旦那が頼りになりゃあなあ」
羽生はあのあとなにごともなかったかのように出勤を再開していた。宇井野はさすがに驚いたようだったが、すくなくとも表立ってはなにも言わなかった。羽生はまったくまえと変わらず、つまり是坊のことを探るでもなく、それを色吉は嘆くのであった。
夕方、両国のけものつかい小屋を回って、それから羽生の旦那の供について羽生邸に戻った。お浅はあれから一度も是坊の屋敷に呼ばれていないという。
羽生の門前で、向こうから歩いてきた留緒と理縫に会った。
「よう、どっか行ってたのかい」
色吉は声をかけたが、留緒はそのままふらふらと門の中に入っていく。
「おいおい、留緒ちゃん」
「え、あ、色吉さん、こんばんは」
「こんばんあ」
理縫も言った。
「こんばんは。お出かけだったのかい」
「うん、理縫ちゃんがね、最近読み書きを習ってるのさ」
「ならてるのさ」
「へえ、寺子屋かい。でもちょっと早くねえか」
「寺子屋じゃあないのさ。奇特な人がいてね」
「いてね」理縫もうんうんとうなずく。
そういえば、と色吉は気がついた。ここのところ、昼間に来ても留緒も理縫もいないことが多かった。




