運命
質素な小屋の中、世界の希望は終わりを迎えた。
マグノリアの勇者。
世界最古の勇者の最後は、呆気ないものだった。
死した者の魂は、冥域にて浄化され無垢なる魂へと還る。
それは勇者とて例外ではなく、彼の魂もまた無垢へと還る筈だった。
竜が一匹、冥域に至る。
「魂の浄化なんてさせない」
竜は、力の限りで勇者の魂を地上へ落とした。
…
「はぁ……困った子ね」
神域にて、女神は溜息をこぼす。
勇者とは 降りかかる厄災──魔王 から世界を救う天命を背負う者である。
その力は運命の縛りに依存する。
魔王が強大であればあるほど、勇者もまた強くなるのだ。
さて、どうしたものか。
浄化を受けず 転生へ向う勇者の魂。
これはつまり、勇者が培ったものを持ったまま生まれ変わるということ。
魔王を倒す程の力を持ったまま 魔王の居ない時代に生まれ変わるということである。
渦中にあるは かつて邪竜を倒す程の力を持った勇者の魂。
「このままだと世界を壊しかねない」
女神は思案する。
このまま転生を許せば、世界の均衡は崩れ混沌が訪れるだろう。
しかし、転生の阻止もまた 世界の運命に綻びが生じかねない。
それが勇者の魂ならば尚更のことである。
「なら出来ることはこれくらいね」
瞬間、運命が分かたれる。
女神は勇者の魂を2つに分け、尚且転生の流れを出来る限り緩やかなものとした。
強大な力を分割し、問題を先送りにしたのだった。
「これ以上の干渉は世界そのものの理を冒してしまう。後は任せたわ 私の愛しい子供たち……」
それから数えて千年以上も先のこと
世界に2つの命が生まれ落ちた