愛妾にされたおデブ姫
「なんで私が野獣の嫁にならないといけないのよ!」
とあるユラシア大陸東南方の小国、ハレルヤのハル姫は叫んでいた。
野獣というのは隣の軍事大国スラバ帝国の皇帝
スラバ14世。
50過ぎの身長は180を越える巨体 帝国の力にまかせて近隣諸国を蹂躙しつつある別名 野獣王
見た目も獰猛でその力に任せてかき集めた美姫は100人を下らないと言われている。あくまでも噂だが。
「それに対して私はハレルヤ一の女神と言われているのに」
悲観して泣くハルは何故か廻りから同情を集めてはいなかった。と言うかジト目が
「どの口がそんなこと言うかな?」
ボソリと若い従者は呟きとは言うには大きすぎる声で言った。
「チン!何か言った!」
ハルは叫んでいた。
「イエイエ姫様の空耳です」
チンと呼ばれた侍従は慌てて否定する。
「誰に女神と言われたのですか」
「10年前に会った少年よ」
平然とハルは言い返した。
ハルの身長は160センチと小柄。
昔は痩せていたそうだ。姫によると。
しかし可愛がってくれていた母が死ぬと
その寂しさを紛らす為に食欲に走り今の姿になってしまったらしい。
体重計を見たものはいないが針が振り切れたとか、渡ろうとした橋が壊れて川に投げ出されたとか、病で倒れた時に寝室まで運ぶのに、侍女が10人がかりでも持ち上げられなくて、兵士を呼んだがその兵士もぎっくり腰になって、貴重な戦力をダメにしたとか
伝説は枚挙に暇がない。
巷では豚姫、100貫デブ姫、土管姫等々 として有名だった。
「誰がデブ姫ですって!」
「誰もそのようなことは申しておりません」
侍女長のマナが言う。ハル姫付になって18年。
生まれたときからハレルヤ第一姫のハルについている重鎮だ。
国王ハレルヤ25世はこのとし50才。
賢王とは呼ばれなかったが、可もなく不可もなく国政を行い20年が過ぎていた。
当時近隣諸国まで月の女神として知られたハルの母を、野獣王と取り合い奇跡的に物にしたのが唯一の自慢。今回の侵略もその恨みを晴らすために野獣王が攻めこんだと言うのがもっぱらの巷の噂だ。
帝国軍は突撃将軍ハッパを先頭に10万の大軍。
対するハレルヤは全軍合わせても1万にも満たない弱小国。勝敗はやる前から判っていた。
そこで宰相から出てきたのが月の女神の愛娘ハルを野獣王の愛妾として捧げる案だった。
それに乗ったのが第二妃でハルの母が死んでから王妃となった妃 、その娘で美貌はハルよりもはるかにましな第二王女。
「姉様は今のままでは絶対に嫁の貰い手の無い行かず後家になるから、姉様の為にも帝国に嫁がれた方がましだ」
と言ったとか言わないとか。
必死に抵抗しようとしたハルだが、宰相らに邪魔されて王に会うことも出来ず、100人のハル親衛隊と共に野獣王の陣地に捧げ物として差し出された。
「そんなことして野獣王の怒りに火を付けなきゃ良いけど」
チンの独り言は善良な臣民は危惧した事だったが。