ここは…
スープを食べ終わると、向かえに座ったお店の女の人が緊張した表情で聞いてきた。
「いかがでしたでしょうか?」
「とても美味しかったです!チキンが一口サイズで食べやすかったですし、トマトの酸味が程よくて一気に食べてしまいました。」と答えた。
すると、「ありがとうございます!自分で作って味見ばかりしていたら、味が分からなくなって不安だったんです。何かこれがあったらいいとか、ありますか?」とぱぁっと笑顔になりながら彼女は言った。
「ん〜、私は付け足さなくてもこのままで良いと思います。」
「そうですか、本当にありがとうございます!感想を聞いて自信が付きました。これでいきます。」と彼女はお礼を言った。
あっ、そうだ。この場所のことを聞こうとしていたんだっけ…。スープを食べることですっかり忘れてた。
「お役に立てて良かったです。あのぅ、変なことを聞きますが、ここは、何処ですか?私、気付いたらここから少し離れた草むらにいまして…。」
そう私が聞くと彼女は一瞬不思議そうな表情を浮かべ答えてくれた。
「…えっと、ここは、フレラン王国の領地の境目です。」
フレラン王国…?聞いたことない名前…外国?でも、日本語で普通に喋ってるし、メニューはカタカナも使ってるし…。
「ここは、日本じゃないですよね?」
すると「はい、にほん…なんて私は聞いたことない国の名前ですね。」と言った。
本当に知らないんだ…。えっ?じゃあここは一体何処なの?
「えっ?じゃあ、アメリカは?イギリスは?中国、ロシアは?」
「ん〜、どれも聞いたことないですね…申し訳ございません」彼女は申し訳なさそうに答えた。
「そうなんですね…。あの、世界地図は持っていますか?」私は懲りずに、何か手がかりとなることを探してみることにした。
しばらくして、彼女は地図を持って来てくれた。大きな地図がテーブルいっぱいに広げられる…。
私が知ってる世界地図ではなかった。
楕円で大きく描かれた中にふた回り小さな楕円の陸地、その中心に大きな山がそびえ立ち山から四方に線が引かれ国境を示していた。楕円の陸地から少し離れた位置にポツンポツンと小さな陸地がいくつもあった。
彼女は指で今いるところを示してくれた。山から左に向かった先の海と丁度中間に当たるところだと言う。フレラン王国はもう少し山に近いところにあった。
そうなのか…。考えてもなかったこの現実に体全体の力が抜ける。私は…別の世界に来たらしい。
脱力した私を見て彼女が声を掛けてくれた。
「あのぅ…大丈夫ですか?そんな訳ないですよね…。貴女のお話を聞くに、貴女の知ってることはどうやらこの世界ではないみたいですし。私も貴女の服を見て別の国からいらした方だとは思いましたが。まさか、別の世界からいらした方だったなんて…。」
「本当、そうですよね…。この世界は全く違う言葉で話す人はいるんですか?」私はふと、質問をしてみた。
「いえ、話す方はいないと思います。呪文はありますが。貴女の世界ではそんな方いらっしゃるのですか?いらっしゃったら、どうやってお話をするんですか?」
と彼女は興味津々に聞いて来た。
「そんなのいっぱいいますよ。日本にも来ている人が沢山いますし、言葉は相手の言葉を勉強して覚えたり、共通の言葉を使って話をするんです。」
と答えると
「へぇ〜、大変ですね。でも、とっても面白そうです!呪文みたいで」と楽しそうに話した。
「でも、これから貴女はどうするんですか?こんな知らない世界で…お城へ行くとおっしゃっていましたが、あっお城でお仕事を探せますからそこに行った方がいいですよ。あっ、この服では怪しまれるかもしれない…。少し待っていて下さいね」と彼女はバタバタと忙しくカウンターの奥へ入っていった。
続く