第五十七部「逃げて」
うむ。
第五十七部「逃げて」
何度目の朝だろう。
違和感を覚えたのは最近のことだ。
……最近?
いや……最近ではない。
俺は何度もこの朝をやり直している。
何度目かは……忘れてしまった。
「おはよう。」
イトが部屋が入ってきた。
女騎士であるイト。
……霧のようなもやがかかって、それが徐々にハッキリとしてくる。
受け継がれてきた記憶の中には彼女がいる。
……いや、正確には、いた。
それも必ず最後に。
「イト……。」
「なに?」
さすがに感付かれたのか、イトは扉を閉めず部屋に二、三歩しか入ってこない。
いつでも逃げられるようにか。
「イト。俺に何か隠していることはないか?」
ざわっ。
背筋が凍った。
イトの目付きが鋭くなったのだ。
軽率だ。
そう思ったのは、彼女を仲間と見られなくなったからだろうか。
後ろを向き逃走を図るイト。
「待てって……!」
急いで体を起こし詰め寄る。
イトは扉を閉めた。
……閉めた……?
振り向きざまに、イトは身をよじり避けた。
「っ……!」
勢い余って衝突しそうになる。背中から衝突した。
正面はまずい。が、扉に背中を向けたのもまずかった。
剣を喉元に突きつけられ、逆に追い詰められた状態になった。
胸ぐらも掴まれ苦しい。
集中も切れ、思考力が低下する。
逃げ場が無い。
鍵も閉まっているようだし、開ける素振りでも見せればやられる。
「……どういう事だ、イト。」
「……いつから?」
「分からない。……お前こそ、何やってるのか分かってるのか……?」
「勿論。」
多くは語らない。
それがイトだ。
しかし、語らない部分にとんでもないものが隠れていた。
隠していたのか。
仲間じゃなかったのか。
「イト……なんだよな……?」
「うん。」
「そうだよな……じゃあ……手が出せねぇな……。」
「……。」
「よく分からねぇけどさ……この甘さで……俺はやり直してきたのか……?」
「っ……!」
動揺した。
僧侶だからこそ、護衛術は身につけている。
胸に掌底を食らわすと、イトはよろけた。
顔を狙えばかなり効いたと思うが、躊躇してしまった。
……そんなことどうでもいい。今は逃げる、しか、ない……よな……?
考えるよりも先に体が動いていた。
鍵を開けて部屋を飛び出す。
イトの足音は聞こえなかった……と思う。
とにかく無我夢中で走ったのだ。
僧侶も世界を救いたいを読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?
ゴール出来るよね、これ。
それでは、また2日後。
Thank You。




