1-1 真実
翌朝起きると目の前に異様な光景が広がっていた。目の前に俺とほぼ同じくらいの身長の女性がいる。まだ目が覚めてないのか。もう一度目を閉じようとした。
「何でまた寝ちゃうの?私だよ。神影だよ。龍?」
嘘だろ?ならばと質問をしてみることにした。
「じゃあ好きなアイドルグループは?」
「ドリームズだよ。龍ならわかってるでしょ?」
疑いは確信へと変わった。こりゃ夢じゃない。てことはあの時の白の呪いを与えられるってのはほんとだったんだ。生き返らせられた。ふとあの使いが話していたことを思い出した。生き返ったとしてもほとんどは発動者にしか見えないことが多いと。神影はそんなこと知らないだろうな。すると神影はどうしたのと言わんばかりに驚くべきことを口に出した。
「私は龍にしか見えないよ?だって私、龍の白の呪いで生き返ったんだから。もう試したんだ。結果は龍にしか見えないことがわかった。家に帰ったんだよ。そしたら誰も気づかない。それで納得した。白の使いさんに言われてたし」
「白の使いを知ってるのか?ましてや白の呪いまで知ってるなんて」
「フフっ。それだけじゃないよ?ちょっと待っててね」
すると部屋のドアを開けて隣の部屋に入ったような気がした。すると
「龍君?」
「どうしたんだ神子。急に改まったような言い方で……」
「私よ、神影だよ。龍君」
「え?」
外見は神子にそっくり。いや完全に体型も似てる。あり得ない。そんなことはないはずだ。そう思った瞬間に神影はそのからくりを話始めた。
「これはね、憑依っていう能力だって。白の使いさんが言ってたよ。あなたは龍さんの大切な人だよって。だから特別にって、与えてくれたんだ。龍君だって神の声がきけるでしょ?」
確かにそうだ。これは神子そのもの。どうやら本当に憑依して完全にコントロールしてるらしい。一度部屋を出て神影の姿になってから俺は神の声が聞けることを思い出した。今まで長いこと使っていなかったからだ。
「俺、実は最近神の声を聞いてなくて、今でも使えるかわからない」
試しにやってみることにした。アテナをイメージした。すると目の前にアテナらしき女性が現れ、
「私を呼ぶのはあなた?」
「はい。でも今は何も考えてないので用事はありません。試しに呼んだだけなので」
アテナは驚いたようだ。少し涙目だった。何で泣いてるんだろうと思っていると、アテナは何処かへいってしまった。
「できた。神の声はまだ聞ける」
「よかったぁ。これから必要だからね」
「意味深すぎるぞそれは」
これから必要と言われても何に使うんだろう。なんか、深く考えさせられるな。そう思った瞬間に誰かの声が聞こえた。
「龍?まだ寝てるの?ご飯だよ。学校でしょ」
凜だった。どうやら心配して声をかけてくれたらしい。
「あ、忘れてた。今日学校だ。急がねば」
俺は返事とともに、神影に向かっても同じように話した。俺は急いで準備をして朝食をとり学校へ向かった。学校へはバスで二十分ほどで着く。学校の名前は「桃ノ宮学園高等部」でプログラミングの勉強をしている。そして今日からゲームを作る実習が始まる。神影も付いていくことになった。
「ねえねえ、龍の学校って何やる所なの?」
あと少しで着くところで一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。言いたくない。ましてや神影になんて。
「プ、プログラミングかな。何でそんなこと聞くの?」
俺はバスの中であることに気づかずに少し大きな声で話してしまった。周りの人は何話してるんだ、誰もいないのに。と、話している。そして、変な目で見られた。
ふむ。ミスした。神影の姿は俺以外誰も見えないのを忘れてた。ってかめっちゃ恥ずかしい……。俺はずっと黙りこんでしまった。
「何で黙っちゃうの?もうひとつの方法があるのに。頭の中で私に話しかけてみて」
俺は恐る恐る
(バスの中だから静かにね。)
と言った。すると
(わかってるわよ。)
通じてる。こんなことが出来るなら先言えよ……。そうこうしてるうちにバス停に着いた。
学校の門を通ろうとしたとき、
「お兄ちゃーん」
「え、なんで!?」
ツッコミをいれるような感じで聞いてしまった。
「あー!もう!だーかーらー!パソコンのキーボード!早く返してよ!」
「あー。ごめんごめん。今教室にあるんだ。ごめん。付いてきて」
完全に忘れてたよ。そう思った時だった。学校の雰囲気がどこかおかしい。神影にもそれは感じられてるらしく、顔が強張ってる。妹を巻き込んでは悪い。そう感じたときだった。目の前の空間が歪んだ。少なくとも俺にはそう感じた。
俺達を歪んだ空間が覆い、みるみるうちに景色が変わっていく。
そして、転移というべき現象が終わったとき、今にも泣き出しそうな妹を抱きしめながら冷静に辺りを見回した。
学校が……消えていた。空は赤く、地面は今にも崩れそうな感じだ。半径5キロメートル程の円のなかに囚われた。逃げるにも回りには10000メートルもあると思われる壁が立ちはだかっている。例えるならば「終わりを迎えた世界」だ。すると、目の前に人らしき影が見えた。
(あれって……まさか)
(そうだね。黒の呪いの組織の一人でしょう)
黒の呪いの組織……。
「お前は誰だ」
「私の名前はアイル・グラトーン。黒の呪いの組織の幹部だ。お前は今枝龍か。そしてそのとなりにいる幽霊サンは神野神影だな。哀れに交通事故で死んだって。フッ!」
神影が見えるのか。そう思ったが、鼻で笑われ、手を強く握った。そして、もう一人、俺の妹について言われる。そう感じた。
「そしてそこの小さいのはお前サンの妹か。フッ!知ったこったねぇ」
「鼻で笑うやつは許さない」
ボソッと口にした。どうやら堪忍袋の緒が切れたらしい。
「へ?なんだって?」
「鼻で笑うやつは許さないつったんだよ!」
殴りかかった。しかし、アイルはすごく速いスピードで避けた。そして、すごい速さで殴った。俺はなにもできずに倒れ込んだ。
(龍、この世界は0.1秒単位で戦いが進むんだよ。このままじゃ無理だよ。)
もう一発襲い掛かろうとしたき、
「ちょっと待ったぁぁ」
叫んだのは妹の神子だった。
「あなた、アイルって言ったっけ?あんた私のお兄ちゃんに何してるの?あーそうゆう人か、不良か。私そんな人だいっきらい!ましてやこんな戦闘バカなんてなおさらよ」
アイルは、今にも泣きそうなくらいの、驚きと悔しさが伝わってくる。そして、しゃがみ込んで、
「そうですよ。私はバカですよ」
これは……っ!?
(たぶん精神を直接的に汚染させているようだね。でも何でこんな力が……?)
(っ!?)
アイルから蒸気のようなものが発生している。アイルの体は瞬く間に蒸発し、骨も残らず消えてしまった。何だこの能力は。妹って世界最強なのか?凄すぎる。そう思うのもつかの間、もとの世界に戻った。アイルらしき姿は見えない。本当に消えたらしい。学校の雰囲気がガラッと変わり、和やかなムードになった。みんな楽しそう。ひとまず今日1日何もなかったかのように過ごそう。そう決心した。