第76話 召喚された者たち
京花は、トシさんたちだけで話ができるように
その場を離れて、ローネたちの部屋へ移動した。
トシさんたち10人は、今後どうするべきなのか話し合う。
「みんなはどうする? あの京花さんの言っていたことを聞いて」
トシさんは、みんなを見渡すとそれぞれの意見を求める。
そこへ、小さく手を上げた女性。マユカだ。
マユカは、20代後半の女性でトシさんの次に頼れる大人になる。
背も高く、スタイルもいいので召喚された当初は皇帝の弟に目をつけられた。
しかし、隷属したあと年齢を聞いて皇帝の弟は舌打ちとともに
『チッ、婆ではないか』と、見下して諦めたという。
それ以降は、体は狙われなくなったが扱いが女性陣の中で一番下になったそうだ。
「私は、京花さんの意見に従った方がいいと思う。
奴隷から解放されて、今までにない力っていうのが私の中にあるのを感じるし
何より、私はあの皇帝の弟をぶん殴ってやりたい!」
マユカの剣幕に、さすがのトシさんも少し引き気味だ。
次に手を上げたのが、サトルとユミナの中学生組。
「俺とユミナも、マユカさんと同意見です。
京花さんっていう女性のことは信用できると思います。
それに、京花さんの話が本当なら私たちの力のことは知った方が、
いえ、知るべきものだと思います」
トシさんも、頷いて賛同しているようだ。
次に手を上げたのが、ツカサとサヤカとナナミの女子高生組。
3人とも違う高校に通っているのだが、話題が会う年齢ということで
自然と3人集まってよくしゃべっている。
しかし、奴隷であの建物に閉じ込められていた時はなるべく外に出ないように
皇帝の弟に目を付けられないように、普段は3人集まって、
全員でいるときは、後方に隠れるように過ごしていた。
「私たちは、一刻も早く日本に帰りたい!
両親や兄弟に会いたいし、学校の友達にも会いたい!
こんな恐ろしい世界になんか一日だって居たくない!」
トシさんは、彼女たちの真剣に訴える言葉に何も言えなかった。
3人とも早く帰りたがっているし、精神的にも限界かもしれない…
最後に手を上げたのが、コウイチロウ、レンヤ、シンジの兄弟3人組。
この3人は本当に血のつながった兄弟で、一番上が大学生のコウイチロウ。
次に高校3年生のレンヤ。最後が高校1年生のシンジだ。
女子高生組とは別の高校らしく、面識はなかった。
「俺たち兄弟は、全員一致で自分の力を制御するために残ることを選ぶ。
日本に帰って、力の暴走で家族に迷惑はかけられない。
これが俺たちの意見だ」
トシさんは、この兄弟の意見を聞いて女子高生たちを見ると
何やら3人で考えているようだった。
トシさんは、もう一度女子高生組のツカサたちに意見を求めた。
「…さっきのコウイチロウさんたち兄弟の意見を聞いて
私たちも、せっかく会えた家族に迷惑はかけたくない。
だから、あと少しだけ。
少しだけ、自分の力を制御する間だけ我慢するってことになりました」
トシさんは、その意見を聞いてほっとした。
これで全員『この世界に残って自分の力を制御して、それから日本に帰る』
この意見で一致した。
それから少しして現れた京花に、トシさんは制御できるまで残ることを伝え
日本への送還をお願いする。
京花は、笑顔でそれを了承していた。
さて、皇帝の弟であるグレーベルを探して屋敷内をウロウロしていた俺は
ようやく本人を見つけた。
執務室のような部屋で、2人の男と話をしているようだ。
俺は、執務室に忍び込み、気配と姿を隠すと本棚の影に隠れた。
「グレーベル様、こちらはいつでも動けるように人員は確保してあります。
城にも人を送り込んで準備は整ってございます」
「リスビル卿、よくやってくれた。
私が皇帝になった暁には、重要な地位を約束するぞ」
うわっ、グレーベルの奴、黒い笑みを浮かべてやがる。
もう1人の男が、グレーベルに質問してくる。
「グレーベル様、決行はいつになりましょうか?」
「もう少し待て、あと2日で例の件で城にいる騎士団が動く。
そうすれば、城に戦力はほとんどなくなる。その時が決行時だ」
「はっ!」
もう1人の男は頭を下げる。
…城にいる騎士団まで動かすって、なにか…って今この帝国って
戦争状態じゃなかったっけ?
ということは、戦争を利用して皇帝の座に就こうというのかこの弟は…
しかし、中央の戦力を動かした時点で負けは確定だな。
この敗北した帝国で、皇帝になって何をしようというのか…
俺にはさっぱり理解できないな。
しかし、これは俺に何ができるかだが…
出来ることは、今の皇帝の弟以外の家族の救出ぐらいか。
俺には、帝国を救うなんてことはできそうにないし
もし、出来る人がいるとしたら
この帝国の戦争相手の王国に招かれた勇者たちぐらいか……
う~ん、城で待機しておくか。
ここまで読んでくれてありがとう。




