第70話 帝国内の町
アジトの食堂で、捕まえた盗賊の手下たちの尋問をしていると
屋敷の外が騒がしくなってくる。
おそらく、援軍が砦から到着したのだろう。
その予想はあたり、食堂にもう1人の護衛のジュリアさんが入ってきた。
「姫様、砦より兄上様が…」
と、紹介する間もなくミュリア姫の兄シュピーゲルが勢い良く入ってくる。
「ミュリア! おお、無事だったか…よかった…」
シュピーゲルは、ミュリア姫にゆっくり近づき抱きしめて泣き出した。
「お、お兄様、なにも泣かなくても…」
「私は、ミュリアの馬車が襲われたと聞いた時からずっと心配していたのだ。
それよりも、盗賊どもから何かされたのか?」
シュピーゲルはミュリア姫の顔を触りながら心配している。
そんな光景を見ていた京花と俺は、セリアさんに
「…確かに、すごい溺愛っぷりですね」
「…お恥ずかしい…」
セリアさんは、シュピーゲルの行動を恥ずかしがっていたが
俺は、なぜか好感が持てた。
この人なら、ここに転がっている連中から聞いたことを話してもいいだろうと。
少し落ち着きを取り戻したシュピーゲルに、
ミュリア姫がここで聞いた情報を聞かせていく。
シュピーゲルは、だんだんと真面目な顔つきになり最後には目を閉じ考えている。
「…わかった、私から陛下に直接お話ししよう」
ミュリア姫は心配そうに兄を見つめる。
「大丈夫だよミュリア、直接私から報告して貴族たちに警告と罰を
あたえるように進言しておくよ」
シュピーゲルは、食堂にいる盗賊と貴族と騎士たちを連行していくと
「ところで、私は砦に帰還するがミュリアたちも来るかね?」
「はい、もともとそのつもりで砦に向かっておりましたから助かります」
ミュリア姫と護衛の女騎士2人は、シュピーゲルたちとともに砦に向かった。
京花に例のことをもう一度頼んで。
盗賊たちが使っていた屋敷は、砦の兵士たちの休息所に改修するそうで
さっそく町から職人を呼び、屋敷を見回らせていた。
俺たちは、この屋敷に用はないのでこの近くの町へ寄ることにした。
そう、盗賊に襲われた女の子5人を解放するために。
女の子5人と、俺だけで街道を歩き町へ向かっていると
街道を巡回している兵士に呼び止められる。
「すまんが、君たちが盗賊にさらわれた女性たちか?」
どうやら、助かったほかの人たちが捜索をお願いしていたようで
俺を見て、盗賊の一味とは思われずに詳細を話すことができた。
「そうか、砦の軍が動いてくれたのか…よかった」
兵士は、安堵していた。
そして、俺たちはそのまま兵士に連れられて町へ行くことができた。
女の子たちには、俺の空間魔法のことは口止めしてあるが
もしばれても問題はないだろう。
俺は、女の子たちを町へ送った後はネコになって帝国へ行くつもりだった。
町へ着くと、女の子たちを心配していた人たちが無事を喜んでいた。
そして、盗賊がどうなったのかとか事の顛末を聞いていた。
兵士は、報告のために熱心に聞いているようだ。
俺は、そんな光景を見ながら路地裏へ入りネコに戻った。
そして、いつも通りその町をうろつくと砦方面に向かう馬車に紛れ込んで
帝国へ向かっていった。
そして俺たちは、隠れながら砦を突破し帝国へと進入した。
帝国にも国境に砦が築かれていたが、人数は王国の砦にいる人数の半分ほど。
それに帝国の砦は、小さいように思えた。
これで、王国の侵攻を防げるのかは疑問だがそれは俺が心配することではない。
俺は帝国の砦を後にして、帝国領内を探索しながら町か村を目指した。
帝国領内と言えど、街道の様子は王国とあまり変わらない。
巡回している兵士たち、行商人の姿も確認。
旅人の姿も所々に見かけた。
どこかの村へ向かう馬車を発見したので、潜入して楽をすることにした。
ガタゴトと揺られながら馬車の旅を満喫していると、
馬車の脇を早馬が通り過ぎていく。
何かあったのだろうが、俺たちには関係ないな…
こうして、馬車に揺られること1日。
俺は帝国に来て最初の町に潜入した。
「止まれ! 馬車の中を改める」
町の兵士だろう、1人が馬車を操作していた人に
2人の兵士が、馬車の荷物や馬車自体を点検していて俺を見つける。
「な、なんだ、ネコか…脅かすなよ…」
そう言って俺を撫でて、他の場所の点検をし始める。
どうも、何かを探しているようだな…
「こっちは問題なし!」「こっちもだ!」「よし、通ってよし!」
このやり取りの末、ようやく町へ入ることができた。
町へ入った俺は、さっそく馬車を離れて情報集をするため町中をうろつき始める。
俺は、町へ入るときの兵士の態度が気になりそのことを聞いて回った。
兵士のことについて一番詳しかったのは、
冒険者ギルドに住み着いていた2匹のネコだった。
名前は、マルとシカク。
彼らの話では、どうやらこの町でおこなわれた奴隷オークションの奴隷が
逃げ出したらしい。
どうやったのかは分からないが、主人が決まる前にいなくなったため
制約がなく、捕まえるのに苦労していてこの町の兵士も駆り出されている。
奴隷を受け取るはずだった貴族は、かなり怒っていて
捜索も昨日から本格的に始まって、町中いたるところで騒ぎになっている。
俺は、京花と相談してその逃げている奴隷を探して保護することにした。
何やらありそうな予感がするな…
ここまで読んでくれてありがとうございます。




