第69話 帝国へ行く理由
アジトの食堂に、ズタボロになった王国の貴族ベルキオ・ローベンが転がっている。
そして、さらに盗賊の頭とその右腕の男もまたズタボロにされて転がっていた。
同じ食堂には、石と鉄の鎖で拘束された盗賊たちがその光景を見て怯えている。
ローベン卿が連れてきていた騎士たちも、盗賊たち同様に拘束されている。
そんな連中を冷たい目で見下す、第9王女ミュリア姫。
「…はぁ~、帝国にも困ったものです。
それに王国を裏切る貴族がそんなにいるとは…嘆かわしい!」
「姫様、このことを王都の陛下にお知らせするべきでしょうか?」
さっきまで、姫の代わりに尋問のためにボコボコに殴っていたとは思えないほど
しっかりとした表情で確認をとる女騎士。
「…いえ、まずは私たちの生存を知らせておかないと。
それに、砦にいる兄上がどう動くか分かりません」
ミュリア姫は、ため息を漏らしていた。
「ああ、シュピーゲル様は妹のミュリア姫を溺愛していますからね。
盗賊に襲われたことはすでに知らされているころですから…」
もう1人の護衛の女騎士が、納得していた。
「私の生存を知らせた後、兄上と相談ということになるでしょう」
2人の女騎士が頷き、
「では、私が砦に知らせてきますね」
と言って、もう1人の護衛の女騎士が食堂を出て行った。
その間、俺と京花は何もすることがないので情報集として尋問の様子を見ていた。
俺も京花も、体制ができていたのか力づくの尋問もなんとも思わなかったのには
驚いていたが、この世界なら当たり前かと納得もしていた。
そこへ、尋問などを終えたミュリア姫と女騎士が近づいてくる。
「京花様の仰られていたのが、そのネコですか?」
「そうだよ、この子は頼りになるんだよ」
久しぶりに、俺をほめる京花だ。
「話によれば、そのネコ、人になれるとか?」
女騎士が、軽い気持ちで聞いてきた。
「ふむ、ケロ君、人になって挨拶したら?」
そう京花が言うと、おもしろそうだと『人化の法』を使う。
俺のネコの体が光ったかと思うと、俺の足元に魔法陣が浮かび姿を人に変える。
勿論、衣装付きだ。
裸で現れるという愚は侵さないのだ!
ミュリア姫と女騎士の前に、10歳ぐらいの男の子が現れた。
その容姿は、誰が見てもかわいいとしか言いようがないそうだ。
髪は短髪で、服はこの世界のものなのに何故か靴は登山靴を履いている。
おそらく丈夫な靴のイメージが、登山靴なのでそうなったのだろう。
「こ、この子が、先ほどのネコ、なのか?」
ミュリア姫が、驚いている。
「初めまして、ケロです」
俺はとりあえず、挨拶をしておいた。
「う、うむ、ミュリアじゃ」
戸惑いながらもミュリア姫は、挨拶をしてくれた。
「ミュリア姫の護衛をしております、セリスです」
おお、女騎士さんの名前はセリスと言うのか!
「あと、砦に援軍を呼びに行ったのがもう1人の護衛のジュリアだ」
ふむ、もう1人の女騎士さんはジュリアさんね。
「それで、京花様。この後はどう行動するのですか?」
ミュリア姫は、京花の方を見ながら今後の行動を聞いてきた。
「私たちは変わらないよ、帝国に侵入して助けたい人を助けてくる」
俺も、その京花の意見に頷いて賛同する。
姫様は少し考えて、
「京花様、もしよろしければ…」
「姫様! それはなりませんよ! 一緒に行くなどとは…」
セリスさんが、姫様を戒める。
「いくら第9王女とはいえ、京花様たちとともに帝国に侵入しようとは…」
何やらブツブツ言っているセリスさんを、姫様が否定した。
「違います!
セリス、いくら私でもできることとできないことぐらい分かっています」
セリスさんがひるむ。
「で、では、京花様に何を願うと?」
「帝国にいる友人のローネの保護とできれば王国へ連れてきてほしいのです」
「……姫様」
ミュリア姫の願いを聞いたセリスさんが、悲しい表情で姫様を見ている。
「理由を聞かせてもらっても?」
ミュリア姫が、頷いて話し始める。
「私とローネは幼馴染なんです。
私は母親の関係で、城ではなく城下で育ちました。
その時、一緒に育ち友達となったのがローネです。
私たちは仲良く育っていき、
私が城に住居が移っても手紙のやり取りはしていました。
そして、同じ学園に通い同じように卒業しローネは帝国の貴族のもとへ。
悲しくもありましたが、手紙だけは欠かしませんでした。
ところが、先月の手紙で夫の貴族が殺されたという手紙を最後に連絡が取れなくて
何度も手紙を出したのですが、何の返事もなく心配なのです。
どうか京花様、ローネを探してください。
もし、生きていてくれるのであれば助け出してほしいのです」
ミュリア姫の京花に向ける目は真剣そのものだ。
京花も、その目に何かを感じ取ったのだろう。
「わかった、ただし、何があっても覚悟だけはしておきなさい」
ミュリア姫は、頷いて答えた。
「姫様…」
セリスさんは、目頭を押さえている。
こうして、帝国へ行く理由をつかして砦から来る援軍を待っていた。
ここまで読んでくれてありがとう。




