第65話 盗賊のアジト
キュビール領の領都に到着し、領主の屋敷に行くとアンナの烈烈な歓迎を受けた。
俺を見つけるなり、いきなり抱き着き体中を撫でまわす。
まあ、俺も気持ちいいのでそのまま撫でまわされましたけど。
とにかく歓迎されて、夕食を終えアンナの部屋で話すことになった。
最近は夫のアルベルは、領内の調整の仕事がなかなか終わらず
ここ何日か帰ってこないそうで、娘たちは魔法の基礎を覚えて
後は学校に通うまで自習するとのこと。
ジニーはアンナのお付きではあるが、メイドの仕事もあり忙しいそうで
ここのところ寂しかったのと、暇だったのとで
俺が帰ってきたのがうれしかったらしい。
それならばと、俺は固定空間のマンションにいる京花とアリスを
アンナに紹介することにした。
京花とアリスが、いきなり何もないところに現れた扉から出てきたときは
驚いていたが、空間魔法だと教えるとすぐに納得してくれた。
どうやら、アンナも空間魔法のことは知っていたようだ。
「では、始めまして。私はケロの師匠で京花と言う。よろしくな」
早速の自己紹介をする京花だが、勇者のことは内緒にしたいらしい。
「次は私。アリスと言います、よろしくお願いします」
と10歳の女の子がかわいく言う姿はアンナに笑顔が戻った。
「はい、よろしくお願いします。私はケロちゃんの名付け親でアンナと言います」
アリスは、アンナにすぐになついた。
やっぱり母親は違うんだろうな、京花へのなつき方とまるで違う。
でも、さすがは年の功、京花はアンナとアリスに微笑ましい視線を向けている。
さて、4人で今後のことを話し合ってみる。
俺はどうしても、帝国の10人の奴隷が気になっていて
そのことで帝国へ侵入するってことをアンナに打ち明けると
俺を心配してくれるためか、暇なためか一緒に行きたいといってきた。
『アンナ、帝国領内へ行くんだぞ?』
「勿論わかっているよ。でも、アリスちゃんが心配なの!」
と、アリスをギュッと抱きしめる。
アリスもまんざらではないようで、笑顔でアンナを抱きしめていた。
「ケロ、アンナのことは私に任せなさい。私が護衛をしよう」
ということで、勇者でもあり桁外れに強い京花ならばと
俺は任せることにして、アンナの同行が決定した。
しかし、領主の奥さんが屋敷から消えるわけにもいかず
どうするかと話し合った結果、京花の空間魔法を利用することにした。
勇者でもある京花の転移魔法は、俺が覚えた空間魔法と違って
転移魔法を使える。
転移魔法は、勇者魔法の1つとされていて勇者のみが使える魔法だ。
ただし、転移の魔道具は存在しているらしい。
それで、京花の転移魔法を使って俺の空間マンションの1部屋に転移空間を設置し
遺跡と空間マンションの1室、空間マンションの1室とアンナの部屋を繋げた。
これにより、いつでも遺跡から援軍が呼べて
アンナもすぐに自分の部屋に帰ることができると、喜んでいた。
…騒ぐところはそこではない気がするのは、俺だけだろうか?
とにかく、俺は再び屋敷を後にして
帝国との国境にある砦を目指した。
砦に行く馬車はないので、砦近くの村へ行く馬車に便乗し出発。
のんびりと、馬車の旅を満喫していた。
俺は、御者席の下の空間でくつろぎながら外の景色を眺めている。
『…なんか、ほのぼのとしていていいな~』
京花たちは、空間マンションでおしゃべりをしているみたいだ。
何をそんなに話すことがあるのだろうかと思ったが、
女性とはそういう生き物なのだろうと思うことにした。
のんびり馬車の旅を満喫していると、どうやらトラブル発生だ。
帝国との国境近くになると盗賊が増えるって
馬車に乗っていた商人が言っていたっけ、
で、今まさに盗賊にこの馬車が襲われている。
盗賊の数は20人ほど、馬車を取り囲み逃げれないようにして
金目のものを回収するようだ。
「親分、この女たちも連れていきますぜ」
1人の盗賊が、1つのグループに纏まっていた女たち5人に目をつける。
「何だ、売り飛ばすのか?」
盗賊は親分の質問に、だらしなく顔を崩し
「何言っているんすか、最近溜まっていた連中の相手をさせるんですよ」
親分は、その意見を聞いて女たちをじっくり眺めると
「…まあいいだろう、頑張った褒美だな」
「さすが親分、話が分かるぜ!」
親分以外の盗賊から、歓喜の声が聞こえてくる。
俺は、連れていかれそうな女性たちを見ると
何かをあきらめた絶望的な顔と目をしていた。
こうして盗賊たちは、その場に縛り上げた男たちを残し
戦利品の馬車に女たちを乗せて、アジトへ引き上げていった。
勿論、馬車には俺も乗っていることなど分からずに。
アジトへと運ばれていく女性たちに、さっそくちょっかいを出そうとした盗賊が
親分に殴られて怒られている。
「アジトまで我慢しろ! ここでつまんだら遅くなるだろ」
殴られた盗賊は、懸命に謝っていた。
「すいません、親分」
「いいから、アジトでそういうことは頑張りな」
手下の盗賊は、いい顔で
「へい! 親分!」
そして、10分ほど進んでいくと大きな廃墟の屋敷にたどり着いた。
俺は盗賊のアジトと言えば、洞窟かと思っていたが
どうやらこの盗賊は違うようだ。
しかも、屋敷には他に10人ほど仲間がいた。
ここまで読んでくれてありがとう。




