第63話 反撃開始
フリーデルド領の領都リーバンは、今大騒ぎになっている。
領内に避難している旧キュビール領の領民の対処に、大忙しだったのに
ここにきて、王都から王国軍が派遣されることが知らされたからだ。
とりあえず、旧キュビール領の官僚などを無条件で採用し
フリーデルド領の官僚をつけて、旧キュビール領の領民の対処をさせている。
また、旧キュビール領との境にある砦にはフリーデルド領の軍の大半を常駐させ
対帝国に備えている。
そして、王国軍到着と同時に再編成をして
旧キュビール領を取り戻すため侵攻するつもりだ。
そのため、旧キュビール領の軍も今まさに再編が始まっていた。
そんな大騒ぎもどこ吹く風とばかりに、俺はのんびりと毎日を過ごしている。
なぜなら、腕輪による召喚の帰還方法を考えてなかったため
王都に帰るためには、歩くか馬車で帰るしかないのだ。
『これは盲点だったな…』
とは、腕輪を製作した遺跡にいる京花の言葉である。
とりあえず、遠距離通信の魔道具は持っていたので連絡してみると
こんな言葉を言われたのだ。
俺はすぐに京花にツッコミを入れたかったが、久しぶりの休息を満喫しようと
今日もリーバンの町をうろつきながら、昼寝スポットでのんびりしている。
そうそう、アリスにも通信を入れたのだがどういう訳か繋がらない。
で、訳を京花に聞くと『主のバカ!』と言って拗ねているそうだ。
…可愛いじゃないか!
あと、アンナたちはフリーデルドの領主の屋敷で毎日退屈そうにしている。
なので、アンナは自分の子供たちに魔法を教えることにしたそうだ。
ジニーは、アンナ付きメイドとして毎日忙しそうだ。
そんなのんびりとした毎日が過ぎた20日後、王国軍が領都リーバンに到着。
1日の休息をとった後、砦へと出発した。
砦に到着後、軍の再編成が行われ帝国へ侵攻が行われる。
そこには、フリーデルド領の領主やアンナの旦那のアルベルも参加する。
また、この侵攻には傭兵や冒険者の参加も見受けられた。
密偵からもたらされる情報には、帝国の怪しい人たちについての報告もあった。
それは10人の奴隷たち。
男女10人の奴隷で、今までになかったような魔道具を開発し
帝国の戦力向上に尽力したそうだ。
さらに戦術をはじめ、兵士たちの訓練方法も考えて劇的に戦力が向上したらしい。
さらに噂では、空を飛ぶ魔道具の開発や今までの遠距離攻撃よりも
はるかに遠くまで攻撃できる魔道具なども開発しているとか。
この情報を領主の屋敷などで聞いた時、すぐに京花に連絡をすると
『それは、勇者召喚で異世界人を召喚して奴隷にしているんだと思うよ』
と、俺と同じ答えが返ってきた。
それで、救出した方がいいのか尋ねてみると
『救出するなら、奴隷解放ができる魔道具を作ってみるよ』
と、楽しそうな声が聞こえていた。
…救出より魔道具製作が楽しくてしょうがないんだろうな~
でも、救出だけだと第2、第3の異世界人召喚があるかも…
やっぱり元から何とかしないとな…
こうして、俺の帝国侵攻戦への参加が決定した。
でも参戦は、魔道具ができてからだけどね。
そして、王国軍と砦に待機していた領軍が合流後
再編され、帝国侵攻が開始された。
再編後の王国軍は、傭兵や冒険者を入れて約20万人。
それを12の師団に分け、侵攻を開始していく。
砦に残る師団は2つ、後の10師団は侵攻を進めていく。
また、これに抵抗する帝国軍は約6万人。
力の差は歴然のはずが、王国軍の侵攻はなかなか進まなかった。
第12師団、その師団を率いるのがフリーデルド領主ボルティオ。
その副師団長として旧キュビール領主アルベルが就任していた。
「南側から侵攻していた第3、第7師団が足止めされて動けないそうです」
まだ本格的に手を付けられていなかった旧キュビール領の領都ネスビア。
王国軍はここを取り戻し、本拠地として使っている。
その中の第12師団専用の屋敷で、偵察隊の情報を聞いていた。
アルベルは、眉間にしわを寄せながら
「やはり、帝国の魔道具による足止めか」
「はい、今までに見たこともないもので鉄の細い柵が作られ
鉄の細い柵には尖った鉄の棘が付いており、撤去しようとすると
敵の弓隊の攻撃を受け、犠牲が出るばかりで進めないそうです。
今は、魔術師部隊の到着を待って待機するしかないと…」
ボルティオは、アルベルの反応を見て
「経験済みか? アルベル」
「ああ、最初の侵攻された時にな。
少数精鋭による反撃を、その鉄の柵で防がれ失敗に終わった」
ボルティオも、難しい顔になり
「他の師団でうまくいっているのは?」
「どこも同じようなやり方で、足止めをされています」
「魔術師部隊は、近い師団から援軍に行かせるように本部に上伸しておこう」
そして、偵察部隊の兵士は敬礼をすると部屋を出て行く。
ボルティオはすぐに上申書を書き上げると、伝令兵に本部に届けるように渡した。
机の上の旧キュビール領の地図を見ているアルベルに声をかける
「アルベル、この侵攻戦は始まったばかりだ。
このままという訳にはいかないさ。これからだよこれから。
だから、そんなに不安な顔になるな」
アルベルは幼馴染の励ましはうれしかったが、どうにも不安はぬぐえなかった。
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