第57話 6年後、動き出す
遺跡の中にある京花の部屋で、俺はホムンクルスにすり寄られながら
京花から白い目で見られていた。
俺にすりすりしているホムンクルスの人格形成を間違えて
この状況になった原因は、分かっている。
参考にした人格が、前の飼い主のアンナのものだからだ。
「わかっているよケロ君、基本人格をアンナちゃんのものにしたね?」
さすが京花だ、よくわかっていらっしゃる。
「…身近に、女の子の知り合いがいなくてな」
「これから、この子にはいろいろと教えていかないといけないんだよ?
大丈夫かい?」
俺は、京花の心配の種であるホムンクルスを見ると
俺の視線に気づいたのか、いい笑顔で答えてくれる。
「主! 私頑張るよ!」
俺はその答えに、ホムンクルスの頭を撫でてやった。
「…頑張ってみるよ。もし、大変そうなら手伝って下さいよ?」
京花は、そんな俺の言葉を聞き少し考えたのち
「仕方ない、生まれたものをリセットはできないからな…」
そう言って、手伝いを了承してくれた。
こうして、俺たちのホムンクルスへの教育が始まる。
「それじゃあ、その子に名前を上げなさい」
「名前……名前か……、アリスってどうだ?」
ホムンクルスは、キョトンとした顔をして
「アリス? 名前、アリス?」
俺は、自分を指さしながら名前を確認しているアリスを見て頷きながら
「そうだ、君の名前だ、アリス」
すると、理解したのか満面の笑顔で
「アリス! 名前、ありがとう!」
そう言いながら、ますます力強く抱きしめてくる。
俺と京花は、それを温かい目で見守っていた。
少し痛かったが、耐えれない強さではなくてよかった…
毎日一緒に、アリスと過ごしながらいろんなことを教えていく。
ある程度の基礎は、人格形成の時に組み込んでいるので苦労することはなかった。
もとの人格の持ち主のアンナと同様に、好奇心旺盛で
いろんなことに興味を持ち、学んでいく。
勿論、遺跡の側にはダンジョンもあるのだからそこでのレベル上げも欠かせない。
と言っても、俺と京花のおまけでのレベル上げだ。
そんなに早くレベルは上がらなかったが、魔法などの覚えは早かった。
戦闘だけでなく、家事も俺の手伝いから学んでいたし
京花のところのホムンクルスからも学んでいるようだ。
また、遺跡以外の外の世界も平和そのものだった。
俺と京花は、嵐の前の静けさととらえていたが…
そして、時間は6年が経過していく。
遺跡の中にあるケロちゃんの部屋、ネコに部屋なんてと言われそうだが
3年前に京花から、錬金術をマスターしたお祝いにもらったのだ。
俺の部屋に、ネコの俺とホムンクルスのアリスが一緒のベッドで寝ている。
アリスも、この6年ですっかり成長している。
体じゃなくて、精神がね。
ケロよりも先に目を覚まし、ケロを起す。
「主、主、朝ですよ、起きてください」
俺は、アリスの声と俺の体をゆする感触で起き上がる。
今日も朝は早い、
『アリス、おはよう~』
俺は、欠伸をしながらアリスに挨拶をして目覚めとなる。
「主、おはようございます」
アリスは、ホムンクルスなのか分からないが目覚めがいい。
さっそく服を着替え始めるアリスをほっておいて、俺は人化の法で人になる。
5年ぐらい前から、ネコの姿ではアリスに訓練をすることができないからと
人化の法を使って起きている間は人になることに決めたのだ。
そのおかげかは分からないが、人化の法を使う時の魔力消費量が減っている。
前は1日も人でいられなかったが、
今では1週間ほど人のままで過ごせるようになった。
それはともかく、アリスの成長もなかなかのものだ。
俺と京花が中心で、遺跡のホムンクルスにも手伝ってもらい
アリスを育てていくと、今では普通の女の子とどこからどう見ても変わらなかった。
ただし、中身は違うけどね…
京花曰く、教師が良かったのとケロ君の育て方が
真っすぐだったからこうなったのかもね。
アリスは、いい子に育ってくれました。
「ケロちゃん、朝のダンジョンにいくよ?」
…少し、脳筋になりつつあるかも。
アリスの一日は、ベッドから起きて着替えると朝の狩りと称して
朝食までダンジョンで狩りをする。
それから朝食をとると、午前の授業。午後の昼食の後は魔法の練習。
それから、夕食までのダンジョンでの狩り。
夕食を終えると、風呂に入りそのまま就寝。
こんな毎日を6年間も、きっちり行ってきたアリスには拍手を送りたいよ。
そんな平和な時間を過ごしているさなか、事態は動いていた。
王都から最も離れた辺境の領土に、進行する部隊があった。
ここまで読んでくれてありがとう。
私用につき、次の更新は16日か17日になります。




