第56話 顛末とホムンクルス
冒険者ギルドの医務室でおきた奇跡は、見舞に来た誰かが
『勇者の足跡』というパーティーに、上級ポーションを使った医療行為だった
ことが判明し、再び騒ぎになった。
上級ポーションは、勇者神話の中でしか出てこないエリクサー級の
貴重な品物だ。
それを惜しげもなく使うことから、もっと所持しているのではと
見舞に来たのは誰なのか、冒険者やギルド関係者が調べる中もっとも熱心だったのが
貴族関係の人たちだ。
貴族やその親類、貴族家に出入りしている商人たちなど
その辺りの人たちが動き出し、大騒ぎとなった。
だが、どんな人たちがいくら調べようと誰が上級ポーションを使ったのかは
分からなかった。
そこで『勇者の足跡』のメンバーに注目が集まる。
上級ポーション関連で、連日事情聴取を受けたり
聞かれたり問いただされるのはマシで、中には脅してくる輩まで現れる。
ギルドは、そんな『勇者の足跡』のメンバーの訴えを聞き入れ
ギルドが責任をもって保護したことにより、メンバーの安全は確保された。
メンバーが安全である内に、ギルド長は王様へこのことを陳情し
貴族たちへ警告という事態になった。
陛下自ら警告という形になり、貴族たちは一応沈静化し
それに伴い、関係者たちも大人しくなった。
ただ、いまだ上級ポーション熱は冷めずにくすぶっていて
何日かに一度は『勇者の足跡』へ接触しポーションの行方などを聞いて
兵士や騎士たちに捕らえられる人がいるのは、しょうがないのだろう。
また、この騒動の間『薬師』の人たちは上級ポーションの研究を続け
一人、また一人と挫折していくのだった。
貴族お抱えの薬師たちはもっと大変で、上級ポーションの再現に失敗し
首になる者が続出したのだ。
『上級ポーション』にかかわり、すべてを失った人たちが出てくるのは
避けられなかった。
そんな騒ぎがようやく沈静化した1か月後、リーダーのグレッグの意識が戻った。
夢から覚めた時、グレッグは自分にそして仲間に何が起きたのか分からなかったが
仲間の説明と、これまでの騒動を聞いて涙した。
そして、自分たちの幸運に感謝し喜んだ。
メンバーと喜びを分かち合うと、今後のことを話し合い決心する。
こののち『勇者の足跡』は王都を離れ、さらなる高みへ上っていくことになる。
王都を離れる日、メンバーは全員希望に満ちていたという。
「…と言うことになっていたぞ」
京花は、傍でおとなしく聞いているネコに顛末を聞かせてやる。
『ん~、「勇者の足跡」には悪いことをしたかな…』
京花は、少し笑うと
「そんなことはないさ、あの子たちにはいい経験だったよ。
それに、ポーションはケロ君が作ったものだし、どう使うかはケロ君しだい」
そして、京花はネコの頭を撫でながら
「私は、君の行動に賛同しよう。
ポーションの使い方も悪くないしね」
『…そうだな、後悔よりも助けてよかったと思うことにするよ。
それよりも、いよいよホムンクルスについて教えてくれるんだろう?』
京花はニヤリと笑うと
「ケロ君、私は今までも一応ホムンクルスについて教えていたんだけどね?」
『そうだっけ?』
「…では質問だ、ホムンクルスの守らなければいけない部分は?」
『それは簡単だ、核の部分だろ?』
「その通り、ホムンクルスは人で言う魂の部分が無事なら何度でも肉体を変えて
よみがえることができる。
しかも、外見は違うのに中身は同じでね」
『それって、転生と一緒だな』
「そうだね、実行者が神か人間の違いかな」
「だから、この間渡したホムンクルスの核となるものを
ケロ君なりに育ててみなさい、外見は私が用意してあげるから」
ネコは、自分のアイテムボックスからホムンクルスの核を取り出し
じっと眺めている。
『…俺なりの育て方?』
「どんな子になるか、楽しみだね」
京花もネコの見ていた核を眺めながら、どんなホムンクルスが育つか楽しみにしている。
1か月後、京花の言っていた外見が完成。
遺跡にある京花の部屋にその女の子は立っていた。
『……なんか普通だな』
そう普通の女の子だ。
年齢は12歳ぐらい、活動的な女の子って感じ。
髪は、肩まであり後ろで1つにまとめている。
顔はどこにでもいる普通の女の子で、特に目立つところはない。
体つきも、特に目立つところはなく普通だ。
服も特徴はなく、まさに見た目、どこにでもいる女の子ってところだ。
「君の希望だったからね、普通の女の子って。
苦労したよ、普通って最も分かりにくい言葉だからね。
だから王都にいる女の子の平均を出して、少し弄ってみた。
どうだい、希望通りかい?」
『ああ、これなら目立つことなく育てられそうだ』
「では、核を」
俺は人化を使い人になると、アイテムボックスからホムンクルスの核を取り出し
女の子の首の下あたりに核を押し込む。
すると、核は抵抗なく中へ入っていきやがて完全に埋め込まれる。
そして、しばらくすると女の子の目が開き、京花と俺を交互に見て
俺に抱き着いてきた。
「主!」
「……これは、どういうことかな?」
京花は、目の前で起きていることが信じられなくて俺を見ている。
「…どうやら、人格形成を間違えたらしい」
ホムンクルスの人格形成。
それは、一人の人間をつくることに等しい。
まさに神業と言えるが、ホムンクルスは人の手によるもののため
一から作ることは不可能に近い。そのため他の人間を参考にして人格形成する。
人格形成とは、一種のプログラミング。
ホムンクルスの核に、参考にした人格を刻み微調整をして完成する。
どうやら俺は、この微調整と参考にした人がいけなかったようだと
ホムンクルスに抱き着かれ、すりすりされながら京花の睨みを受けていた。
ここまで読んでくれてありがとう。
私用も終わり、今日から再開します。




