表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコで異世界を生きる  作者: 光晴さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/86

第55話 医務室の奇跡




深夜の冒険者ギルドは、閉まっていない。

どうやら24時間常に開いているようだ。

試しに、他のギルドなどの建物を見てきたがどこも閉まっていた。


冒険者ギルドだけ、特別みたいだな。


それはともかく、ギルドの中に忍び込むと人がいなかった。

いや、受付に女性が1人。

カフェに寝ている冒険者が3人と、掲示板で依頼書を張り替えている職員が1人。


俺は仕事をしている2人を警戒しながら、医務室へ足を進める。


…なんか、病院の夜の廊下を思い出すな。

薄暗く、ところどころ明るくなっていて響くのは自分の足音。

まあ、今の俺は肉球で足音でないけどね~



さて、医務室の前には誰もいなかったので勝手に中へ忍び込む。

…お邪魔しま~す。

医務室の中は、静かだった。


寝息とかいびきとか聞こえるかと思っていたのだが、何も聞こえなかった。


部屋を間違えたかと心配になり、ウロウロしてみると

ベッドには、入院しているフローラたちが寝ていた。


フローラに近づき、ベッドに登ってみるとフローラの寝息が聞こえる。

ん~、どうやら結界魔法の一種だろう。

おそらく、いびき対策だな。


音が漏れないなら、ちょうどいい。

俺は人化の法で人になると、フローラに話しかけてみる。


「フローラさん、フローラさん、お薬の時間ですよ」

フローラは薄目を開けて、俺に答えてくれる。

「……はい…」


そう弱々しく答えるフローラに、水差しに入れた上級ポーションを

ゆっくり、ゆっくり飲ませていく。

そして、全部飲み切ったところで再び声をかける。


「…はい、お薬を飲まれましたので寝ても大丈夫ですよ」

「……はい…」

そう答えると、フローラは再び目を閉じ寝てしまう。


…遅効性を作ってきてよかった~

京花には、おかしな顔をされたけどここで治ってしまうと大騒ぎだからな。

このポーションを飲んで、再び寝てもらわないとな!



こうして、この後も入院しているフローラの仲間に

薬と偽って、飲ませていくのだが、ここで最大の難関が現れた。

未だ意識が戻っていないフローラの仲間だ。


全身傷だらけで左腕をなくして、今も意識が戻らない男。

パーティー『勇者の足跡』のリーダー、グレッグだ。


俺は、水差しでグレッグにポーションを飲ませようとするが

口が開かず、飲ませることができない。

う~ん、グレッグの場合、外傷だけのようだから


ポーションを全身にかけてもいいのかもしれないな。

俺はすぐに、水差しの中のポーションをグレッグに振りかけた。

…グレッグがびしょ濡れになったけど、これで治るはずだ。


さて、何も起きていない今のうちに医務室を出て行くか。



次の日の朝、冒険者ギルドの医務室から叫び声が聞こえたそうだ。

なんでも、朝のお見舞いにルベルが医務室を訪れた時

そこには、抱き合って涙を流している女性3人の姿と


ベッドに、びしょ濡れで傷も欠損もすっかり治っているが

未だ意識が戻らないグレッグの手を握りながら泣いているリーガの姿があった。



ルベルが、医務室の状況に頭が追い付き叫び声を上げると

医務室の先生が飛び込んできて、ルベルと同じように再び叫び声をあげる。


…考えたら、昨日まで動くことさえ困難だった人が

一晩で動けるようになったところを目の当りにしたら、叫びたくもなるか。


あと、胸をなくした女性が復活していた自分の胸を確かめるために

よせて、上げてを繰り返しているとフローラとレナに怒られたそうだ。

上級ポーションで、そこまで治るのか~



で、あとの問題が未だ意識が戻らないリーダーの存在か…

フローラたちはこれからどうするのかな?




「なるほど。でも、上級ポーションなら当たり前の効能なんだけどね~」

京花は、出来あがったばかりのポーションを瓶に詰めていく。


ここは遺跡の京花の部屋の中、今朝のギルドで起きたことを話していた。

「でも、意識が戻らないのはなぜだろうか?」

俺は人になった姿で京花の部屋で手伝っている。


「それは、自己嫌悪の所為かもね」

瓶に詰め終わり、蓋をしてその上から札を張っていく。

「自己嫌悪ですか?」


ポーションを作りながら、手を止めることなく喋れるのか…

「そのリーダーは、責任感の強い人なんだろう」

瞬く間に、ポーションも完成した。


「金と銀の騎士と、戦えるから挑んだもののパーティーに大損害が出てしまった。

しかも、二度と冒険者を続けられないほどのケガを…

たぶん、そう思って悩み続け自問自答を繰り返しているんだろうね」


出来あがったポーションを箱詰めし、ムツミに渡していく。

「意識は戻るのか?」

ポーションの箱を持って、ムツミが部屋を出て行くと


京花は考える。

「ん~、何時かは戻るよ。何かきっかけがあればね」

「きっかけか……」




『勇者の足跡』におきたことは、瞬く間にギルド中に知れ渡り

さらにギルドを出て、王都中でも騒ぎになった。

冒険者ギルドの奇跡として。


また、水差しの中に不思議な液体が残っていたので

これを鑑定に出したところ、またしても大騒ぎになった。


これには貴族たちも関わりを持ってしまい『勇者の足跡』を脅したり

手を出したりされ被害報告がギルドに届くようになり、

ギルドから陛下に苦情が行ったなどいろいろ話に事欠かなかった。



こんな騒ぎの中でも、リーダーが目覚めることはなかった。







ここまで読んでくれてありがとう。

私用のため、次回は3日後です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ