第54話 冒険者の現状
冒険者ギルドに併設されているカフェで、酒を持ち込み愚痴を言っている
ランクAの冒険者がいる。
それをなだめているおそらく冒険者仲間、組んでいるパーティーは違うのだろう。
着ている鎧の胸に付いているマークが違った。
ここ王都にいる冒険者達もそうだが、ベテランパーティーは
それぞれにパーティー名がある。
それに伴い、パーティー名とともにマークも決めて
どこの所属か分かるようにしている。
これは、魔物と戦ってもし首を落とされた場合
どこの誰が死んだのか確認するためだ。
さて、カフェで酔っ払っている冒険者になぜみんな同情的なのか…
おそらく、こいつのパーティーで間違いないな。
俺が遠巻きにネコの姿で確認していると、酔った男に近づく女性。
「ルベルさん、フローラさんの意識が戻りましたよ」
ルベルは、勢いよく立ち上がるとそのままギルドの奥に走っていった。
声をかけた女性は、あ然とルベルの消えた方向を見ている。
「エルナ、意識が戻ったって本当か?」
同じテーブルでルベルを解放していたもう一人の男が声をかけた。
「はい、ようやくですが…」
男が溜息を吐く
「ギルドの医務室に、ルベル以外の仲間が全員入院とはな。
確か、ダンジョンの70階層での戦いが原因だって?」
「そうです、でもダンジョンコアを守っていた魔物だったそうですから
生きているだけでも奇跡ですよ」
「…『勇者の足跡』は解散かな」
暗い表情の2人は、ルベルのいなくなった方向をじっと見ていた。
冒険者ギルドの医務室には、今、5人の男女の冒険者が横になっていた。
1人の男は、左腕をなくし全身の切り傷が痛々しい。
今も意識が戻らず、日に何度も定期的に回復魔法をかけられていた。
もう1人の男は、右ひざから下がなかった。
また肩が抉れていて、これまた痛々しい。
意識は戻ったものの、今後のことを考えているのか目に光がない。
男たちとは別の列のベッドに寝かされている女性たち3人。
1人の女性は、左肩から右へ大きく切られたため
回復魔法で何とか一命はとりとめた。
だが、彼女の魅力だった胸は切られた影響で失くなっており包帯姿が痛々しい。
もう1人の女性は、両腕の肘から下がなかった。
意識はあるし、回復魔法をかけて包帯をしているだけだが
今後を考えると、どうすればいいのか頭を抱えたくなるだろう。
だが、彼女は今、自分の隣で寝ていたもう1人の女性の意識が回復したことを
素直に喜んでいた。
「フローラ、よかった……意識が戻って」
全身が包帯に巻かれていて、ところどころ赤い斑点がある。
どんなに回復魔法をかけようとも、なかなか傷がふさがらなかったため
最終的に縫って血を止めたのだ。
ギルドに運び込まれた時は死を覚悟した。
レナは、目の前のフローラを見てここに運び込まれた時のことを思い出していた。
ダンジョン70階層の最終地点に、あの魔物はいた。
金と銀の騎士。劣勢に次ぐ劣勢で仲間のほとんどが切り刻まれた。
無事だったものはいないが、比較的傷が軽かったのは斥候職のルベルだけ。
金と銀の騎士を何とか倒したものの、宝物を確認する暇がなく
皆の傷を何とかしながらの帰還。
ダンジョンの転移装置から、血だらけの私たちが出てきたときは大騒ぎだった。
医務室にいる仲間を見ると、レナは溜息を吐く。
「…レナ……どうし…たの?」
レナのほほを涙が伝って落ちていく。
「フローラの意識が……戻って、よかった……」
全身包帯で巻かれていて喋りづらい中、レナを安心させようとするフローラ
「私は……大丈夫よ…」
レナは、俯いて泣いている。
「大丈夫じゃないよ…6日も意識がなかったんだから…」
フローラは自分の手を動かそうとするが、動かない。
おそらく包帯で動かないのだろうと諦め
「ごめんね……でも…他の…みんなは?」
その時、大きな音とともに扉が開きルベルが勢いよく医務室に入ってきた。
「意識が、戻ったって!」
「うるせぇ! 静かにしろ!」
医務室に入ってすぐに仲間に怒られるルベル。普段もこんな感じなのだろう。
「すみません、リーガさん。
フローラの意識が戻ったって聞いて、つい…」
頭を何度も下げるルベルだが、リーガは八つ当たりをする。
「ルベル、もっと気を遣えよ。仲間はみんな欠損しちまった。
おれなんて、片足がなくなって今後どうしたらいいのか分からねぇ…」
「リーガさん……」
「おまけに見ろ! 肩が抉れて腕を動かすこともできねぇんだぞ!
……今後俺は何のために生きて行きゃいいんだよ」
無事な左手で顔を覆い、泣き始めるリーガ。
ルベルは、仲間の無事を喜んでいたが今後のことを考えると落ち込んでしまった。
…ひどいな、これは。
金と銀の騎士の強さが分かるってものだ。
フローラもレナも、ダンジョン体験の時に世話になった礼も込めて
俺の中にある上級ポーションをプレゼントしたいんだけど
ただ、プレゼントしても受け取ってくれないだろう。
……これは夜に忍び込んで、ポーションを飲ませるのが面白いかもしれん。
明日の朝には、医務室の全員回復ってね。
ここまで読んでくれてありがとう。
次回は台風の影響のため、8日か9日になります。




