第49話 目的地到着
ダンジョン24階層。
俺は今、アンナの影に隠れながら目的階層の1歩前まで来ている。
遺跡の主の京花に、宝物奪還隊の結成を提案するとすぐに採用。
ホムンクルス6人を編成して、遺跡から奪われた宝物を取り返し始めている。
なぜ、今までこんな提案がなかったのか。
そもそも、ホムンクルスは主には絶対逆らわないため
提案どころか服従しかないそうだ。
また、意見を出してくれる人材もなく遺跡には京花以外生きているものがいない。
正確には、ホムンクルスも生きているのだがそれを除くと
京花しかいなかった。
だからだろう、俺が帰ろうとすると全力で止められたのは。
とりあえず、京花とは友達になりいつでも連絡が取れるようにと
通信の魔道具を持たされた。
この魔道具は、アイテムボックスに入れていても通信が可能で
まるでスマフォを持たされている気分だよ。
さらに遺跡に直接これるようにと、空間移動魔法まで教えてくれた。
…寂しかったんだろうな、1人になってから200年以上経つらしいし。
アンナたち学園のイベントはどうなったのか気になって
こうして戻ってくると、どうやら続行が決定してたようだ。
学園生徒の中には、トラウマを抱えた生徒もいるみたいだが
結局25階層には行かなくてはいけないらしく、慎重に進んでいる。
アンナたちの班は、トラウマはなかったようだ。
24階層を慎重に進み、宝物はスルーして先を急ぐ。
影の中から、時折アンナたちを覗いているがやっぱり怖がっているみたいだ。
…ムツミの強さに衝撃を受けたか。
ムツミの強さは勇者の基礎能力と同じ、これは確かに人々は恐れたはずだ。
何というか、隔絶した差があるように感じたな。
俺は転生者だから、何とかなるというような感じを持ったが
この世界の人なら、いつ自分たちにあの力が振るわれるかという
恐怖が強くなって勇者排斥に繋がったんだろうな…
そう言えば、京花が気になることを言っていたな。
確か『勇者召喚は今もおこなわれているよ、特に北方の国でね』だったか。
そのうち、出会うことがあるのかな?
お、25階層への階段を見つけたな…
クレアが見つけた25階層への階段の側には、学園の職員と冒険者がいる。
どうやらここで間違いないようだ。
階段に近づくと、両方から『お疲れさま』と声をかけられた。
「みんな、この階段を降りれば目的地の25階層だよ。
これまでのダンジョンでいろんな体験と経験をしたけど、ひとこと言わせて。
本当にお疲れ様、そして、ダンジョンの不思議さを体験して帰りましょう」
アンナたちは、力強く頷きフローラの言葉を心に刻む。
そして、25階層へ降りて行った。
アンナたち学園の生徒は今、その光景に呆然としていた。
25階層へ降りる階段は、今まで下りたダンジョンの階段と何も変わらなかったのに
25階層には、階段を降りてすぐに扉があった。
その扉は天井まで届いていて、ここから先の25階層を隠しているようだった。
アンナたちは、フローラとレナに促されつつ皆でその扉を開けて
扉の向こうに広がる景色に、呆然としたのだ。
それは、25階層すべてが草原という広大さ。
それは、天井がなくなり青い空が広がり白い雲まで浮かんでいる。
それは、今までのダンジョンの空気までもが違っている。
これは、驚くなという方が無理だろう。
かくいう俺も、影から25階層を覗き見てその光景に驚いたのだから。
「……すごい」
「すごいでしょ、アンナちゃん。
これがダンジョンの本当の不思議さよ」
アンナたちは、驚きながらも歩き出し草原の中心に見える大きなテントを目指した。
それは、学園が用意した休息所。
このテントで休み、ダンジョン体験終了となるのだ。
リニアとサラは、空を見ながら歩いているとあるものを発見する。
「アンナちゃん、鳥が飛んでる!」
「ええ、ダンジョンに鳥? 魔物じゃなくて?」
アンナたちはリニアの指さす方向を見ると、確かに鳥が数羽飛んでいた。
「…どうなっているの?」
アンナは、フローラとレナに助けを求める。
「あ~、ごめん。
鳥がなぜ飛んでいるかは、私たちにも分からないんだよ」
フローラとレナは謝っているが、そもそもダンジョンに常識は通じないんだろう。
俺も気配を探り、鳥を感知した。
このダンジョンの中で、確かにあの鳥は生きているようだな。
そんな不思議を発見していると、学園の用意したテントに到着。
中に入り、学園の職員と先生に挨拶をして無事にたどりついた報告をすませる。
報告をすませた後は、指定されたテントに移って休息をとるだけだ。
護衛のフローラとレナとは、このダンジョンから出るまで一緒だから
同じテントで、休むことになった。
テントの中にある椅子に座ると、サラはようやく一息ついた。
「はぁ~、今回のダンジョンは大変だった~」
「サラちゃん、何飲みます?」
リニアが全員の飲み物を用意している。
「リニアちゃん、手伝おうか?」
「大丈夫よアンナちゃん、アンナちゃんも座ってて」
アンナもリニアに促されて、みんなと同じように椅子に座って飲み物を待つ。
「エリーちゃん、これからもダンジョンって入れるのかな?」
ローリルのその発言に、みんな驚く。
「ローリルちゃん、あんな体験したのにダンジョンに来たいの?」
リニアはみんなに飲み物を配りながら、ローリルに聞く。
「確かに、あの女の子は怖かったけど私の将来のためには必要かなって」
「ローリルちゃんは、将来実家を継ぐんでしたわね」
ローリルはエリーの言葉に頷き
「そう、だから強くならないと…」
アンナたちもローリルの言葉に、まだ見えない自分の将来を思い描いた。
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