第47話 誕生秘話と主
ホムンクルスの謎を解くため、遺跡に入り込んだネコ。
ホムンクルスのムツミに案内されて、ついた部屋には
ホムンクルスの入った棺桶が、56体も並んでいた。
そして、棺桶の並んだ一番奥にオリジナルが入った棺桶があった。
『この人が、ホムンクルスたちのオリジナル…』
ムツミは立ち上がると、説明をしてくれる。
「この人の名は、神崎鈴奈。
勇者召喚によってこの世界へ召喚された勇者の1人だ」
俺は、この棺桶で眠る女性が日本人だったことに衝撃を受け
さらに、ホムンクルスのオリジナルとなっていることに疑問しかなかった。
ここは、説明好きなムツミに聞いてみよう。
『…ちょっと、質問があるんだがいいか?』
「ああ、かまわない。私でわかることなら答えてやろう」
…やっぱり、説明好きホムンクルスか?
『まず、なぜ勇者がオリジナルになっているのか説明してくれるか?』
「少し長くなるが、いいか?」
俺は頷いて、肯定した。
「彼女が勇者として召喚された時、他に30人ほどが一緒に勇者召喚された。
そして、全員で当時世界を苦しめていた魔王を討伐。
その後、全員で元の世界へ帰ったのだが、次の勇者召喚の時、
再び彼女は勇者として呼ばれてしまった。
その頃、日本で彼女にとってよくないことが起きていたらしく
魔王討伐後の帰還を望まずに、この世界へ残った。
無論、この世界に残ったのは彼女だけではなく20人ほどの勇者が
この世界が気に入り、残ったそうだ。
それからは平和が続き、勇者の力を必要とする災害は起きなかった。
そのため、人々は勇者たちを恐れ始めた。
人々の自分たちに対する感情に気づいた勇者たちは、
すでに日本に帰還することはできず、どうにかしてこの世界で生きていくため
当時、世界の国々の力の及ばないこの地に安住の町を作ったそうだ。
それがこの遺跡だ。
勇者たちは、自分たちで作った町に自分たちの家族と信頼する仲間を呼び
平和に暮らそうとしたが、町を維持するには人数が足りなかった。
そこで、当時『錬金術の勇者』だった彼女がこの町の助けとなれるように
ホムンクルスを作り上げたのだ。
ただ、1からホムンクルスを作るにはどうしても素材が足りなかったため
自分自身を基礎として、ホムンクルスを作りみんなに喜ばれたそうだ。
めでたし、めでたし…」
…勇者の力は、平和な世界では必要とされなかったか。
でももし、必要とされていたらそれは戦争の道具としてだろうな…
勇者の彼女がオリジナルだった理由と、この遺跡誕生の物語が分かったな。
この遺跡は、元は町だったんだな。
それが年月とともに遺跡になり、今やダンジョンの浸食にあっているか…
歴史とは、こうやってできていくものなんだな…
『次の質問だ、棺桶には入っていないのもあるが中のホムンクルスはどこへ?』
ムツミは、棺桶を見渡し
「おそらく、遺跡内の点検や掃除だろう。
ダンジョンに侵食され始めてから、私たちは目覚め始めたからな」
『それは、ダンジョンの浸食を防ぐために点検や掃除をしているのか?』
ムツミは頷き、
「点検は、壊れた遺跡の修理。
掃除は、浸食場所から入り込む魔物を掃除するということだ」
『あと、他のホムンクルスもムツミのように強いのか?』
「そうだ、私の強さはオリジナルの彼女の基礎能力と同じだ。
流石は勇者だというべきだな」
…なるほど、ムツミの強さの秘密は
勇者である神崎鈴奈の基礎能力をもとにしてあるからか。
確かに、さすが勇者だな!
それなら単独で、いろんな場所の遺跡への浸食を対処できるか…
さらに、まだ目覚めていないホムンクルスもいるようだし…ん?
『なあ、オリジナル自身が目覚めることはないのか?』
少し悲しい顔になるムツミ。
「オリジナルが目覚めることはない。
なぜなら、彼女は200年前に亡くなっているからな。
彼女だけじゃない、他の勇者たちも彼女と同じくらいで亡くなっている」
俺はオリジナルの眠る棺桶を見て、まだ若々しい姿に
『こんなに姿が若いのに、目覚めることはないのか?』
ムツミは、顔を横に振りながら
「姿が若いのは、不老というスキルのおかげだ。
そのため、この世界の人たちより長生きをしていたが1000歳を超えると
体のどこかが限界を迎えたのだろう、次々と亡くなっていった」
……やべぇ、俺も不老持ちだ。
不死は期間限定だから、我慢できるかもしれないが年をとらないってことが
かなりの負担になることは、間違いないようだな…
これは、何か対策を考えないと先達の二の舞になりそうな予感がする!
『今思いつく最後の質問だが、盗まれた宝物を取り返すホムンクルス隊を作って
ダンジョンへ侵攻してもいいんじゃないか?』
ムツミは少し考えながら
「…そうだな、その意見は主に相談してみよう。
そうすれば、私がダンジョンへ襲いに行くこともないだろう…」
『…ちょっと待て、ムツミ、主って誰だ?』
「主とは、私たちホムンクルスに命令できる人で
この遺跡を管理している最高責任者だな」
『え~と、その人と会うことは可能か?』
ムツミは、その場で黙って立ち尽くしていたが30秒ほどで
「主が会ってもいいそうだ、案内しよう」
そう言ってムツミは、俺を主というやつのもとへ案内してくれる。
……なんだろうか、この疲労感は。
確か、どこかでムツミは言っていたよな。
主の命令で動いていると、よく考えれば始めからその主に会えばよかったかも。
いや、これも必要な手順だったと思う。
…そう思わないと、自分が馬鹿に思えてくるぞ…
ここまで読んでくれてありがとう。




