閑話5 不安を取り除くには
ダンジョン22階層の臨時休息所。
アンナたち学園の生徒と護衛の冒険者たちは、ここで休息をとっていた。
1人、テントから出てきたアンナはテントの側で夜番をしていたフローラに
声をかけられる。
「アンナちゃん、眠れないの?」
魔道ランプの明かりの前で座っていたフローラの隣に、アンナは座り
「はい、明日からどうするのかなって…」
アンナの不安そうな顔を見たフローラは、
「学園職員の人たちと冒険者たちで話し合った結果、25階層へ向かうみたいよ」
それを聞いたアンナは、不安そうな顔でフローラを見ると
「大丈夫よ、アンナちゃん。
ここから先の宝箱に手を出さなければ、あの女の子は襲ってこないわ」
「ほ、本当に?」
フローラはアンナの不安な気持ちがよく分かった。
例の女の子に、あのような目に合わせられれば誰でも不安になるだろう。
「ええ、それに25階層までいかないと
また同じ階層を通って戻らないといけないのよ、それは面倒でしょ?
25階層には、学園側で用意した転移装置があるそうだから
ダンジョン入り口まですぐよ、すぐ」
フローラは、すぐにダンジョンから出られることを力説するが
アンナの気になる所はそこではなかった。
「フローラさん、転移装置って?」
アンナが興味津々にフローラに詰め寄る。
「…えっと、学園側が用意してくれるものよ。
正確には『ダンジョン内専用転移装置』と言うらしいわね」
それを聞いたアンナは、少し考え込んで
「それって、どこへ転移するか指定できるんですか?」
「ええ、ダンジョン内であればいったことのある階層へ転移できるそうよ」
さらに続けてフローラは説明してくれた。
「通常この転移装置は、ダンジョンの入り口に設置されるの。
そうすれば、行ったことのある階層へ一瞬で行けるからね」
「でも、それなら帰りは…」
フローラは、笑顔で答えてくれる。
「腕輪の形の『簡易転移装置』があるのよ、それで戻ってこれるの」
再びアンナは考え込むと、
「それなら、簡易の腕輪を私たちに配ればよかったんじゃ?」
「それだと、すぐに入り口に逃げてくる生徒たちがいるでしょ?
今回はダンジョン体験を生徒たちにしてもらいたかったんだから
どんなことがあろうとも、目的階層まで来てもらわないとね」
アンナは頷きながら「確かに…」と呟く。
「あら、2人で何の相談?」
フローラとアンナで話していると、そこへエリザベスが声をかけてきた。
「エリーちゃんも、眠れないの?」
エリザベスは、アンナの隣に座り
「いいえ、話し声がしたから起きちゃったのよ」
その答えに、フローラとアンナはお互いを見て苦笑いをした。
「フローラさんは夜番として、アンナちゃんは眠れないの?」
アンナは下を向いて
「うん、明日のことが不安でね…」
「そういえば、25階層へ進むことになったそうね」
フローラは頷き、
「ええ、話し合いで決まったそうよ。
エリザベスちゃんは、あんなことがあったのに不安にならないの?」
エリザベスは、眉間にしわを寄せて
「エリーでいいわよ。
確かにあんな体験したら不安になるけど、だからって止めるわけにはいかないわ」
「それって、国のため?」
アンナが、不安な顔で聞いてくる。
「いいえ、みんなのためよ。
あの女の子との体験で、ダンジョンの怖さはわかったけどそれだけでしょ?
だから、最後まで進んでダンジョンの良さも体験してもらわないとね」
「エリーちゃん、ダンジョンの良さ?」
フローラが疑問を抱き質問する。
「そうよ、ダンジョンの良さは目的地へたどり着けばわかるわよ」
アンナとフローラがお互いを見て、エリザベスを見ると
エリザベスは、堂々とした態度で鼻高々だった。
その態度がおかしくて、アンナとフローラは笑ってしまう。
「ちょっと、なぜそこで笑うの?」
「ご、ごめんなさい」
アンナもフローラも謝るが、笑顔は変わらなかった。
そんな2人の笑顔に、エリザベスは少しだけ拗ねてしまった。
これからも続くダンジョン体験だが、
エリザベスがいれば、頑張れそうになるアンナであった。
ここまで読んでくれてありがとう。




