第46話 オリジナル
ダンジョン23階層を奥へと進むホムンクルスのムツミ。
そして、洞窟の行き止まりに到着すると誰かに話しかける。
「私の影に隠れているのは、誰ですか?」
…もしかして、ばれてる?
ムツミは、腰の剣を鞘から抜くと自分の影に向けて突き立てた。
それと同時に、影から飛び出す一つの影。
ムツミはすぐに地面に突き立てた剣を抜き、その影に横から切りつける。
俺はすぐに『盾魔法』を2重で展開!
外側の魔法の盾は、ガラスが割れる音とともに砕けたが
もう一つの盾は、しっかりとムツミの剣を受け止めた。
…あぶねぇ~、2重にしなかったら切られていたとこだ。
本能、さまさまだな!
「ほう、ネコが私の剣を受け止めるとは驚きです」
『よく分かったな、俺がいたこと…』
「私の影から魔力を感じました。
魔力の塊の大きさに困惑しましたが、ネコなら納得です」
持っていた剣の切っ先を俺に向けて、ムツミは話をする。
「それで、私に何の用ですか?」
『俺はホムンクルスとやらに興味があるだけだ』
…鑑定でムツミを見るが、確かにホムンクルスとあるな。
レベルは表示されないが、実力はムツミの方が上だろう。
しかし、年齢が1000歳を超えているのは流石ということなのかな?
俺が鑑定の結果にいろいろ考えている最中に、ムツミは剣をしまった。
「ただ興味がある。偽りなしの本音と受け取りました。
ついてきなさい、ホムンクルスは私1人だけではありませんから…」
『…俺を信用するのか?』
「人であれば信用しませんが、ネコなら構いません。
主の命令にも、ネコを信用するなとはありませんから」
そういうと、ムツミは行き止まりの洞窟の壁の中に入っていった。
……え? 壁をすり抜けた?!
いや、本当は通路があるのに、隠しているのか…
俺は、何度も洞窟と遺跡を行ったり来たりして確かめる。
その行為を遊んでいると勘違いしたのだろう、ムツミが声をかけてきた。
「遊んでないで、ついてきなさいネコ」
『お、おう』
俺はそのムツミの声に反応し、ついて行く。
洞窟から遺跡の中へ、地面が石の敷かれた道へと変わる。
横幅は5メートルぐらい。
等間隔に、石の柱がたっていた。
何か絵か模様のようなものが描かれているが、俺にはよくわからなかった。
「不思議ですか?」
ムツミが声をかけるまで、どうやら見入っていたようだ。
地球にはなかった絵や模様だし、白い壁にも絵が描かれている。
「この壁に描かれている絵は、勇者神話の前の物語です」
『勇者神話の前?』
俺の質問がおかしかったのか、ニヤリと笑うとムツミは答えを喋った。
「ネコよ、この世界に生物が誕生して長い年月が過ぎました。
人の歴史は、勇者神話の前からあったのですよ」
そういうと、壁の絵を見ながら話を聞かせてくれた。
「昔々、人々が平和に暮らしていた時代がありました。
ある日、突然空から大きな扉が落ちてくるとその中から『黒いもの』が現れました。
『黒いもの』は、魔物を生み出し悪魔を生み出し最後に魔王を生み出しました。
人々の平和は魔王によって奪われ苦しめられました。
そんな時、人々のもとに『白いもの』が現れ『召喚魔法』を授けました。
人々はその魔法に縋り、勇者を呼び出しました。
…この後は、勇者神話に繋がっていきます。
この壁には、そこまでの物語が描かれているのですよ」
『へぇ~』
俺は圧倒されていた。
壁の絵もさることながら、天井にも絵が描かれているのだ。
こんな遺跡、見たことない!
呆然と壁から天井を見ていると、ムツミが声をかけてくれた。
「ネコよ、先に行きますか? それとも、ここで絵を見ていきますか?」
俺は、声をかけてきたムツミを見上げると
『勿論、先に進むぞ』
ムツミは頷き、この廊下を先に進み始める。
俺はその後を、ネコの足でおいていかれないようについて行った。
俺は、周りをキョロキョロしながらムツミについて行く。
正直、この遺跡すごい!
何がすごいって地球的に言えば、世界遺産登録間違いなしな遺跡だよ。
今歩いている廊下の壁には、絵が描かれ続き
それがすごい歴史的価値がある。
天井の絵もすごいのだ。どうやって描いたかは知らないが、素晴らしい。
「ここだ、この先に私たちホムンクルスの秘密がある」
ムツミが、扉の前に立っていた。
両開きの扉には、2つの扉のそれぞれに人の全身が描かれていた。
おそらく、男性と女性だろう。
どこかわからないが民族衣装的なものを着た人が描かれていて
それぞれが手に、右の扉は槍を、左の扉は剣を持って描かれている。
「ネコよ、入るぞ」
俺がムツミを見ながら頷くと、両扉を開けて放つ。
ゆっくりと開かれていく扉から、中が見えた。
『……これって』
部屋の中へ入って最初に目に入ったのは、大きな棺桶のような透明な棺。
そこに裸の女性が、何かの液体に浸かって寝ている。
培養液に浸かっているホムンクルスといったところだろう。
しかし、その透明な棺桶が1、2、3……56あった。
いくつかの棺には、何も入っていなかったが見ていて気分のいいものではないな…
ムツミはさらに先へ進み、一番奥の他とは違った棺の前に立ち膝をつく。
その棺は、透明ではあるがいろいろと飾りがしてあって
まさに特別感を出していた。
『この棺は?』
「この中に入っているのが、私たちホムンクルスのもととなった女性だ」
『…オリジナルってことか』
ここまで読んでくれてありがとう。




