第5話 冒険者と赤い狼
私たちは、懸命に走った。
そしてようやく森を抜けたところで、
あの赤い狼と対峙しているベロとジンを見つけた!
「ジン!ベロ!」
「おお、ケニーとリリーか!どうにか無事だったか」
「ジン、今はその話はあとよ!トールは?」
「奴なら町のギルドに走らせた!」
「なら、私たちはトールが人を連れて戻ってくるまでもたせるよ!」
「「おお!」」
赤い狼は、私たちが会話している間も威圧と威嚇をしている。
すごい威圧ね、魔法職の私でさえ汗が止まらない…
「対峙しているだけなのに、なんて威圧なの…」
「ジン!ベロ!盾を前面に出して、防御主体でもたせるよ!」
「「任せとけ!」」
ジンとベロが盾を前に構えて、赤い狼にじりじりと近づいていく。
あ、赤い狼が姿勢を低くした!こいつは!!
「ジ「ジン!ベロ!ブレスが来るよ!!」」
私も、防御魔法を…
ま、間に合わない!
▽ ▽ ▽
【石壁】
俺がそう唱えると、赤い狼の目の前に地面から石壁が飛び出した。
赤い狼が履いたブレスは、その石壁に当り冒険者たちは助かったようだ。
ブレスを吐き終えた赤い狼は、俺の方を睨む。
…怖いぞ、その目!
しかし、魔法の呪文って英語のような呼び方じゃなくても発動するんだな……
あ、そうか。確か魔法の本に、
『イメージが大切だ、呪文はイメージの補助だ』って書いてあったな。
ということは、呪文の唱え方はこだわる必要はないわけか…
なら、なじみ深い日本語で唱えてみるか。
日本語の方が、イメージしやすいしな!
と、それよりもあの赤い狼を逃がさないとな…
俺は、赤い狼を右前脚で招く。
すると赤い狼は、それを確認するとすぐに俺の方に走ろうとする。
【黒い煙幕】
俺の呪文で石壁の周りから、黒い煙が辺りを包み込み誰が誰だかわからなくなった。
その間に赤い狼は、森の中の俺のもとに駆け寄ってきた。
「ぶわっ!なんだこの煙は!」
「ま、前どころか周りも見えない!」
「ジン!ベロ!リリー!どこにいるの?!」
「ケニー、私はここよ!」
「どこよ!見えないわ!!」
「ちょっと待って!【ウィンド】!」
黒い煙が、リリーといった魔法使いの魔法で吹き飛ばされる。
黒い煙がなくなると、そこには石の壁だけが残っていて赤い狼はどこにもいなかった。
「……助かったの?私たち」
赤い狼が、俺の目の前で止まり
俺に威嚇と威圧をしてくる。
目の前で威圧されると、すごいくるな……
「ニャウ」
俺は、後ろの木に向かって声をかけるとその木の陰から2匹の子供狼が姿を現す。
子供狼は、すぐに赤い狼の傍まで走り体を摺り寄せて甘えている。
『この子たちはケガをして動けなかったはず、お前が治したのか?』
「ニャウ」
俺は赤い狼の問いに頷いて答える。
『フフッ、そんな魔法を使えるのに念話ができないとはおかしなネコだ』
おお、赤い狼が笑ったかと思ったら威圧がなくなった。
赤い狼は、足元の子供の狼を1匹づつなめてやってる。かわいいな~
『この子たちを治してくれたこと、礼は言っておく。ありがとう』
俺は、お礼を言われたことに照れてしまい右前脚で顔を隠した。
「ニャニャ」
『…まあいいだろう。今度会う時までには念話を身につけておけ。
それで、会話が成り立つ』
俺は頷いて、了解と示した。
『ではな…』
赤い狼は、そう言って子どもの狼を連れて森の奥へ走っていった。
念話か…身につけておいて損はなさそうだな…
俺は赤い狼を見送った後、そんなことを考えながら草原の見える木に登り
絵だから、冒険者たちの会話を聞いていた。
冒険者4人は、その場にへたり込み動けないでいるようだ。
そこに、町の方から1人の男が走ってくる。
「おーーい」
「トール、ギルドには知らせたか?」
トールはジンたちのもとに駆け寄ると、息を整えながら会話をする。
「はぁ、はぁ、ギルド、には、し、しら、知らせた…」
「そう、それで人を寄こしてくれるって?」
「ケニー!ぶ、無事なんだね!」
「ええ、私もリリーも何とか無事よ」
「リリー!……よかった、ホントに、よかった…」
あ~あ、トールって人泣き出しちゃったよ。
「トール、うれし泣きは構わんが、ギルドからどれだけ人が来るんだ?」
「…あ、ああ。ギルドの人の話だとランクAのパーティーが来てくれるそうだ」
「ランクAとは、よく来てくれることになったな…」
「『レッドウルフ』のことを話したら、すぐに連絡をつけてくれたよ」
「そう、でも無駄足になりそうね…」
「そうだな、あの黒い煙のおかげで赤い狼は逃げたみたいだからな」
「え?あの狼が逃げたの?」
「う~ん、逃げたというより見逃したってことかな…」
「それじゃあ、あの壁は…」
トールが意思の壁を指さすと、石の壁は音もなく崩れた。
「な!」
「…壁の向こうには何もいないわね」
その時、町の方向からどう見ても格上な男と女の子の2人が走ってきている。
「おい、あれって『ドラゴン親子』じゃないか?」
「ジン、その親子ってランクAのパーティーの2人組?」
…そんな親子がいるのかよ。
冒険者パーティーって、すごい人が上には存在しているんだな…
おお、あの人たちが『ドラゴン親子』か。
…確かに、男の方はすごい筋肉だ。あれならドラゴンとも戦えそうだな~
女の子の方は、まだ子供だな。でもツインテールがよく似合っていてかわいい~
2人とも軽装に見えるけど、隙が無いように見える。
しかし、武器はどこだろう? 荷物もお互いリュックを背負っているけど…
あれ?リュックからあきらかに入らない大きさの武器を取り出した…
って、あのリュックは無限鞄ってやつか!
マジックアイテム、初めて見たぜ~
「おいおい、バストールさん、もう赤い狼はここにはいないぜ?」
「…そうなのか?せっかく戦えると楽しみにしていたんだが…」
「父さんは、脳筋」
「「ブフッ」」
「笑うなよ、ケニー、リリー」
「ごめんベロ、ごめんバストールさん」「ごめんなさい」
何ごともなかったのように、バストールは武器をリュックにしまうと
「気にするな、娘はかわいいからな」
バストールさん、娘の可愛さにメロメロですよ~
こりゃダメだ、もう危険はないようだし俺は少し寝るか…
木の上で寝るのは初めてだが、大丈夫だろう。
一応、魔法で落ちないようにしておくか。
【命綱】
木の蔦が俺に何度か巻き付き、落ちないようになったところで眠りについた。
冒険者たちの会話を子守歌にして……
ここまで読んでくれてありがとう。